インプラントにメンテナンスは必要？必要な理由やメンテナンスの流れ、費用や頻度まで徹底的に解説！

インプラントは、失われた歯を長期的に補うことができます。しかし、その長期的な機能は毎日の適切なケアに加え、プロによるメンテナンスが大きく関係します。

この記事では、メンテナンスの必要性や流れ、そして日々のセルフケア方法に加え、健康な生活習慣がインプラントの寿命にどのように影響するかを徹底解説します。

インプラントのメンテナンスに関する理解を深め、お悩みを解消していきましょう。

インプラントにメンテナンスが必要な理由は？

①インプラントの寿命を延ばすため

インプラントは、適切なメンテナンスが行われていれば、非常に長持ちします。通常、良好な口内環境と適切なケアが施されている場合、インプラントは15年から20年以上機能し続けるとされています。

インプラントの寿命を最大限に延ばすためには、定期的なメンテナンスが不可欠です。

プロフェッショナルクリーニングや咬合調整を受けることで、インプラント周囲の軟組織や硬組織の状態を最適に保つことができます。これにより、インプラントの長期的な安定性が確保され、結果として寿命が延びることになります。

※1 参考文献

上部構造装着後に 20 年以上経過した患者 1,168 人を 対象としてアンケート調査を行い回答が得られた 509 人から以下の結果を得た．

 1．インプラントの経過については「特に問題ない」 が 78％と最も多かった．

インプラント治療に対する患者の意識調査　https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsoi/19/4/19_478/_pdf

②インプラント周囲炎を予防するため

インプラント周囲炎は、インプラント周囲の組織に炎症が生じる深刻な合併症です。この炎症は、主に細菌の蓄積によって引き起こされます。定期的なメンテナンスにより、これらの細菌の蓄積を防ぎ、インプラントと周囲組織の健康を維持します。

※2 参考文献

RC の被験者においては， 埋入したインプラント 263 本のうちインプラント周囲炎に罹患したものは 93 本で罹患率は 35.5％であった．IC の被験者に おいては，埋入本数 126 本に対して周囲炎に罹患したものは 79 本で罹患率は 62.7％であった．

※歯科医院施設にてインプラント補綴を行い，インプ ント治療終了後3年以上経過した患者を対象とし， 2019 年1月～2020年12月の2年間にメインテナンスを目的に4回以上来院した患者をregular compliers群（RC 群），4 回未満の患者をirregular compliers群（IC 群）に分類した．

定期的メインテナンスの有無とインプラント周囲炎発症頻度についての 症例対照研https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsoi/35/3/35_212/_pdf

③残っている健康な歯を守るため

インプラントがある口内では、残っている自然歯にも影響を及ぼします。インプラントのケアが不十分な場合、隣接する自然歯にプラーク（歯垢）や歯石が広がり、虫歯や歯周病のリスクを高める可能性があります。インプラントの適切なメンテナンスにより、全体の口腔衛生が向上し、自然歯を健康に保つことができます。

④メーカー保証が受けられるようにするため

多くのインプラントメーカーでは、製品に一定の保証を提供していますが、これは適切なメンテナンスが行われていることが条件となることがあります。定期的なメンテナンスは、保証条件を満たすためだけでなく、万一の問題が発生した際に迅速な対応を受けるためにも重要です。適切なメンテナンス履歴があることで、メーカーのサポートを最大限に活用できます。

メンテナンスを行わないとどうなる？

①インプラント周囲炎のリスクが高まる

先程解説したように、インプラント周囲炎は、インプラントを取り巻く骨と軟組織に発生する炎症です。この状態は主に細菌の蓄積が原因であり、定期的なプロフェッショナルクリーニングと適切なケアを行わないと、細菌が増殖しやすくなります。インプラント周囲炎が進行すると、周囲の骨が徐々に吸収され、インプラントの安定性が低下し、最悪の場合はインプラントの喪失につながります。

※3 参考文献

多くの臨床研究によって、プラークコントロールの不良がインプラント周囲炎に関与していることが示されており，オッズ比は 3〜14である。日本で行われた研究としては，Mameno らが，縦断研究において，OʼLeary のプラークコントロールレコード（PCR）が20％ 以上の患者は，20％ 未満の患者と比較してインプラント周囲炎を発症するリスクが 2.61 倍高かったと報告している。

インプラント周囲炎の診断・リスク因子・治療に関するエビデンスと今後の課題　https://www.jstage.jst.go.jp/article/perio/65/3/65_81/_pdf

②不具合が起きる

メンテナンス不足により、インプラントの構造部分にも影響が出ることがあります。例えば、インプラントのアバットメント（インプラント体と補綴物を繋ぐ部分）の緩みが生じたり、補綴物（人工の歯）自体に亀裂が入ったりすることがあります。これらの不具合は、インプラントの機能性を損なうだけでなく、修復にも高額な費用がかかることがあります。

③噛み合わせが悪くなる

インプラントのメンテナンスが行われない場合、噛み合わせのバランスが崩れることがあります。これは、インプラントの補綴物や隣接する自然歯に不適切な力がかかることで起こります。噛み合わせが不均衡になると、顎の痛みや頭痛、更には顎関節症の原因となることもあります。定期的なチェックと適切な調整によって、これらの問題を未然に防ぐことができます。

毎日のセルフケアは何をすればいい？

インプラントを健康に保つには、毎日のセルフケアが必要です。適切にケアをすることで様々なリスクを回避することができます。

①丁寧に歯磨きを行う

インプラントと自然歯の周囲を清潔に保つために、1日に少なくとも2回、歯磨きを行いましょう。歯磨きは、プラークと食物の残りを効果的に除去し、細菌の蓄積を防ぎます。特に、インプラントの周りは細菌が集まりやすいため、インプラント周辺を丁寧に磨くことが重要です。

②歯ブラシ以外のケア用品を使う

口内を清潔に保つためにも、歯ブラシ以外のケア用品を使って丁寧に歯を磨きましょう。

歯間ブラシ

歯間ブラシは、インプラントと隣接する歯の間やインプラントのアバットメントと歯肉の境界など、通常の歯ブラシでは届きにくい部分のプラークを効果的に除去します。

デンタルフロス

フロスは、歯と歯の間やインプラントの周囲に詰まった食べ物の残りやプラークを除去するのに役立ちます。特に、インプラントの下の細い隙間を清掃する際には、非常に有効です。

タフトブラシ

1本の細い毛束で構成されており、小さくて丸いブラシ頭が特徴です。インプラントや歯列の隅々まで磨くことができ、非常に効果的です。

デンタルリンス

口内をすすぐことで、口腔内全体の細菌量を減らし、炎症を防ぐ効果があります。リンスは特に就寝前の使用が推奨されます。

③研磨剤が含まれていない歯磨き粉を使用する

研磨剤を含む歯磨き粉は、インプラントの表面を傷つけることがあります。そのため、インプラントのある方は、フッ素を含む低研磨性の歯磨き粉を選ぶことが重要です。インプラント専用の歯磨き粉も市販されており、インプラントの表面を傷から守りながら歯磨きをすることができます。

セルフケアはインプラントを保つために必要不可欠ですが、それだけではインプラントの健康を完全に保つには不十分です。日々のブラッシングやデンタルケア用品の使用により、多くのリスクを予防できますが、専門的なメンテナンスに比べると限界があります。

特に、プロフェッショナルクリーニングによってのみ除去できる硬化した歯石や、レントゲンでのみ確認可能な骨の状態など、自宅でのケアでは対応できない健康問題も存在します。

そのため、定期的なプロフェッショナルメンテナンスは必須となります。

ここからは、メンテナンスについて詳しく解説します。

メンテナンスの流れ

①口腔内の状態をチェックする

メンテナンスの最初のステップとして、歯科医師は患者の口腔内全体の健康状態を観察します。これには、歯肉の色、腫れ、出血の有無などの検査が含まれます。特に、インプラント周囲の組織を詳しくチェックし、異常がないか確認します。これにより、初期の問題を早期に発見し、適切な処置を行うことが可能になります。

②レントゲン撮影

次に、インプラント周囲の骨の状態を評価するためにレントゲン撮影を行います。インプラントが骨にしっかりと固定されているか、また骨吸収（骨の減少）の兆候がないかを確認するのに役立ちます。レントゲンは、インプラントの下部や隣接する歯の根に隠れた問題を明らかにするのにも重要です。

③PMTC（プロフェッショナル・メカニカル・ティース・クリーニング）

PMTCは、専門の器具を使用してプラークや歯石を除去します。特にインプラントの周りやアバットメントの部分に細かい注意を払いながらクリーニングを行います。この処置により、インプラント周囲炎のリスクを著しく減少させることができます。

④噛み合わせの調整

インプラントのメンテナンス中には、噛み合わせのチェックと調整も重要です。不適切な噛み合わせは、インプラントに過度のストレスをかける原因となります。、必要に応じて噛み合わせを調整し、インプラント及び自然歯に均等な力が分散するようにします。

⑤ブラッシング指導

最後に、自宅でも適切にケアできるようにブラッシング技術を指導します。これには、特にインプラントの周りやその他の困難な部分の清掃方法に焦点を当てます。正しいブラッシング方法を学ぶことで、日常的にインプラントを適切にケアすることができるようになります。

メンテナンスはどのくらいの頻度で行うべき？

インプラント治療後のメンテナンス頻度は、患者さんの個別の状況によって異なります。自分の状況に合わせて、また歯科医の指示に従って行いましょう。

一般的にメンテナンスは3~4ヶ月ごとに受けることが推奨されます。特に、術後1年間は、インプラントと周囲組織の安定化が進む重要な時期であるため、欠かさずメンテナンスを行いましょう。

インプラントが安定し、問題なく機能している場合でも、少なくとも年に1回は専門的なメンテナンスを受けることが推奨されます。しかし、多くの歯科医師は、インプラントの状態や患者の口腔衛生の状態に応じて、6ヶ月ごとにチェックアップとプロフェッショナルクリーニングを勧めています。

また、糖尿病や自己免疫疾患がある方、喫煙者など、インプラントの合併症が発生しやすいリスクファクターがある場合は、より頻繁にメンテナンスを受ける必要があります。この場合、3～4ヶ月ごとに歯科医師の診察を受けることが推奨されます。

なお、これらは全て目安であるため、メンテナンスの頻度は、個々のニーズに合わせて調整することが重要です。定期的に歯科診察を受診し、必要に応じてメンテナンス計画をカスタマイズしましょう。

メンテナンスにかかる費用は？医療費控除は適応される？

①費用

メンテナンスの費用は、実施される処置の内容や歯科医院によって異なりますが、一般的な目安をご紹介します。

②医療費控除となる費用

年間に一定額以上の医療費を支出した場合、所得税の控除を受けることができます。この医療費控除には、インプラントのメンテナンス費用も含まれるため、年末には領収書を保管しておくことが重要です。医療費控除を適用するためには、年間で10万円以上（または総所得の5%を超える部分）の医療費が必要です。具体的な控除額は、支出した医療費から自己負担額を差し引いた金額になります。

インプラントのメンテナンス費用を医療費控除に含めるためには、適切な領収書の保管が必要であり、年末の確定申告時にこれらの領収書を提出する必要があります。

歯科医院でのメンテナンス時に、どの処置が医療費控除の対象となる可能性があるかを確認することも有用です。

また、医療費控除の適用については、税務署や税理士にご相談いただくことをお勧めします。

医療費控除について、詳しくはこちらの記事も併せてご覧ください。

その他生活で気をつけるべきことは？

①健康管理

全身の健康は口腔の健康に直接影響を及ぼします。特に糖尿病や心血管疾患などの慢性疾患は、インプラントの周囲の組織に影響を与えることがあります。また、定期的な運動を行い、ストレス管理をしましょう。

②食生活

ビタミンとミネラルが豊富な食事を心がけ、カルシウムやビタミンDを適量摂ることで、骨の健康を支えることができます。また、硬すぎる食べ物や粘着性のある食べ物は、インプラントに無理な力がかかる原因となるため、できるだけ避けましょう。

③喫煙習慣の見直し

喫煙はインプラントの失敗率を高める主要なリスクファクターです。タバコの煙は、口腔内の血流を減少させ、組織の治癒能力を低下させます。インプラント周囲炎のリスクも高めるため、インプラントを長持ちさせたい場合は喫煙をやめることが強く推奨されます。

※4 参考文献

本研究の結果から、非喫煙者のインプラント脱落率が3.56％であるのに対し、喫煙者の脱落率は7.14％ であり、喫煙者の脱落率が有意に高いことが示された．

オッセオインテグレイテッド インプラントに対する喫煙の影響　https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsoi/10/2/10_163/_pdf

④歯ぎしりの軽減

歯ぎしりは、インプラントに過剰な力を加えることがあり、インプラントの損傷や周囲の骨の吸収を引き起こす可能性があります。この習慣がある場合は、歯科医師に相談し、ナイトガードの使用や咬み合わせのチェックなど、適切な対策を講じることが重要です。

明敬会では、他院で治療したインプラントのメンテナンスも可能です。

インプラント治療を受けたものの、その後引っ越してしまい、メンテナンスを受けられなくなったという方もおられます。当院では、他院でのインプラント治療後のメンテナンスも承っておりますので、お気軽にご相談ください。

インプラントのメンテナンスを怠ると、細菌感染だけではなくインプラント周囲炎というインプラントの歯周病になるリスクが高まります。そのため、メンテナンスではインプラントの状態を確認するだけではなく、クリーニングも行います。

もちろん、ご自宅でのブラッシングなどセルフケアも重要です。しかし、正しくブラッシングできない患者様もおられるため、セルフケアだけでインプラントのトラブルを防ぐことは難しいと言えます。歯科医院では、セルフクリーニングの方法も細かくアドバイスさせていただいておりますので、一度ご相談いただければと思います。