インプラントの仮歯はどんなもの?期間・費用・注意点を徹底解説

インプラント治療を検討中の方から、「治療中はどんな歯が入るの?」「見た目は大丈夫?」といった不安の声をよく伺います。

インプラント治療中に使う仮歯(プロビジョナルレストレーション)は、見た目を保ち、咬み合わせを安定させる重要な役割を持ちます。使用期間は平均3〜6か月で、手術法によっては手術当日に装着できるケースもあります。骨とインプラントが結合するまでの間、治療を成功へ導くための欠かせないステップです。

本記事では、仮歯の役割から日常生活での注意点まで、患者さんが知っておくべき情報を詳しく解説します。

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監修者

医療法人社団 明敬会

滝澤 聡明 | Toshiaki Takizawa

1968年生まれ、東京都出身。93年、神奈川歯科大学卒業後、国際デンタルアカデミー入校。国際デンタルクリニック勤務の後、96年にタキザワ歯科クリニック開業。98年、日本大学歯学部生理学教室に入室し、2004年に博士号取得。同年、医療法人社団明敬会を設立し、理事長に就任。2006年湘南藤沢歯科開設。2019年東京日本橋デンタルクリニック開設。

この記事でわかること

・インプラント治療中に使う仮歯の役割や目的

・仮歯の装着期間や費用、治療をスムーズに進めるためのポイント

・仮歯期間中の食事・歯磨き・トラブル対応など、日常生活で注意すべきポイント

目次

インプラント仮歯とは?役割をわかりやすく解説

インプラント治療中に「仮歯」の期間があるのはなぜ?

インプラント治療において、仮歯期間が設けられるのには明確な医学的理由があります。

インプラント体(フィクスチャー)を顎骨に埋入する手術を行った後、骨とインプラント体がしっかりと結合する「オッセオインテグレーション」という過程が必要です。この生物学的な結合プロセスには、通常3〜6ヶ月の期間を要します。

この期間中、インプラント体に過度な力(咬合力)がかかると、骨との結合が阻害され、治療が失敗に終わる可能性があります。そのため、最終的なセラミッククラウンやジルコニアクラウンではなく、調整や交換が容易な仮歯を装着するのです。

つまり、仮歯は治療の成功を確実にするための「安全装置」といえます。

インプラント治療中の「仮歯」の重要な5つの役割

仮歯は単に「見た目を保つため」だけのものではありません。口腔内の健康を維持し、最終的な治療の成功を導くために、以下の5つの重要な役割を果たしています。

①審美性の維持(見た目を美しく保つ)

歯が欠損した状態では、特に前歯部(審美領域)において社会生活に大きな支障をきたします。仮歯を装着することで、治療期間中も自然な笑顔を保つことができます。レジン(歯科用プラスチック)製の仮歯は、天然歯に近い色調に調整できるため、至近距離でなければ周囲の人に気づかれることはほとんどありません。

②発音機能の維持

歯は発音において重要な役割を果たしています。特に前歯が欠損すると、サ行・タ行・ラ行などの発音が不明瞭になり、仕事や日常会話に影響が出ることがあります。仮歯を装着することで、舌の位置や空気の流れが正常に保たれ、明瞭な発音を維持できます。

③咬合の維持(隣接歯の移動防止)

歯が欠損すると、周囲の歯がその空隙を埋めようと移動を始めます。隣の歯が傾斜したり、対合歯(噛み合う反対側の歯)が挺出(伸びてくること)したりするのです。このような歯の移動が起こると、せっかく作製した最終的な補綴物が適合しなくなってしまいます。仮歯はこの「スペースキーパー」としての役割も担っています。

④軟組織の保護(傷口を細菌などから守る)

インプラント埋入後の治癒期間中、歯肉(歯茎)は非常にデリケートな状態にあります。仮歯は手術部位を物理的に保護し、食物残渣や細菌の侵入を防ぐバリアとして機能します。

⑤硬組織・軟組織の維持

歯がない状態が続くと、顎骨は徐々に吸収(痩せていくこと)し、歯肉も退縮してしまいます。これは「廃用性萎縮」と呼ばれる生理現象です。仮歯を通じて適度な刺激が加わることで、骨や歯肉の健康が維持されます。

※1 参考文献

以上の口腔機能に対する各種の治療法において,人工歯根が適用され,これを利用したインプラント義歯が応用され,術後機能の回復に重要な役割を果たしている。

インプラント義歯による咀嚼ならびに構音機能の再建 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjhnc1974/21/3/21_3_501/_pdf

仮歯の種類と特徴

インプラント治療における仮歯には、いくつかの種類があり、患者さんの状態や治療計画に応じて使い分けられます。

【比較表】仮歯の主な種類

種類装着時期固定方法メリットデメリット
即時荷重仮歯手術当日~3日スクリュー固定即座に審美性回復骨質・骨量の条件あり
固定式仮歯抜糸後1~2週セメント/スクリュー安定性が高い一般的な方法
暫間義歯状況により取り外し式清掃しやすい安定性に劣る

即時荷重仮歯は、十分な初期固定が得られた場合に限り、手術当日または数日以内に装着できる仮歯です。患者さんの心理的負担を大きく軽減できますが、適応症例は限定されます。

固定式仮歯は最も一般的な方法で、インプラント体にスクリューやセメントで固定します。安定性が高く、日常生活での違和感が少ないのが特徴です。

仮歯と最終的な人工歯の違い

患者さんからよく「仮歯と本物の歯はどう違うの?」というご質問をいただきます。

素材の違い

  • 仮歯:レジン(アクリル樹脂)製。加工が容易で調整しやすい
  • 最終補綴物:セラミック、ジルコニア、金属など。強度・審美性に優れる

強度・耐久性の違い

  • 仮歯:数ヶ月の一時的使用を想定。咬合力には限界がある
  • 最終補綴物:10年以上の長期使用を想定。天然歯に近い強度

審美性の違い

  • 仮歯:基本的な見た目の再現。やや不透明で単調な色調
  • 最終補綴物:天然歯の透明感、グラデーション、表面性状を精密に再現

仮歯の期間と費用

インプラント仮歯の期間はどのくらい?長引く原因と短縮する方法

仮歯の装着期間は、治療部位や患者さんの骨の状態によって異なりますが、一般的な目安をご説明します。

仮歯を装着するタイミング

従来法では、インプラント埋入手術後、歯肉の治癒を待って1〜2週間後の抜糸時に仮歯を装着します。一方、フラップレスインプラント(歯肉を大きく切開しない術式)や即時荷重プロトコルを採用する場合は、手術当日から3日以内に仮歯を装着できるケースもあります。

仮歯を使用する期間

オッセオインテグレーションの完成には個人差がありますが、一般的な期間は以下の通りです:

  • 前歯部(審美領域):3〜4ヶ月程度
  • 臼歯部(奥歯):4〜6ヶ月程度
  • 骨造成を併用した場合:6〜12ヶ月程度

下顎は骨密度が高く血流が豊富なため、上顎よりも治癒期間が短い傾向にあります。また、若い方や全身状態が良好な方は、治癒が早い傾向にあります。

※2 参考文献

仮着材の使用期間(再仮着の期間)に関しては,1~3カ月が51.1%と最も多く,次いで4~6カ月が29.8%,以下は図に示すとおりであった.全体の約8割が6カ月以内に使用期間を設定しており,比較的短いサイクルで再仮着を行っていることが明らかになった.

歯科インプラントに関するアンケート調査 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsoi/12/2/12_262/_pdf

仮歯の費用はどのくらい?

仮歯の費用相場

インプラント治療における仮歯の費用は、クリニックや仮歯の種類によって異なりますが、一般的な相場は以下の通りです:

  • 標準的な仮歯:1本あたり1万円〜3万円
  • 審美性の高い仮歯:1本あたり3万円〜5万円

多くのクリニックでは、仮歯の費用をインプラント治療費に含めて提示しています。例えば「インプラント1本40万円(仮歯込み)」といった料金体系です。

仮歯の作り直しが必要になった場合

通常の使用による調整や、クリニック側の不具合による作り直しは、多くの場合無料で対応してもらえます。しかし、患者さんの不注意による破損や紛失の場合は、追加費用(5,000円〜2万円程度)が発生することがあります。

保険適用について

残念ながら、インプラント治療は基本的に保険適用外(自費診療)となるため、仮歯も保険は適用されません。ただし、インプラント治療全体(仮歯を含む)は医療費控除の対象となります。

仮歯期間中の過ごし方と注意点

食事の注意点

仮歯はレジン製で強度に限界があるため、食事には注意が必要です。

避けるべき食べ物

  • 硬い食べ物:せんべい、ナッツ類、氷、硬いパン、フランスパンの端、りんごの丸かじり、骨付き肉
  • 粘着性のある食べ物:キャラメル、ガム、お餅、大福
  • 着色しやすい食べ物:カレー、ミートソース、コーヒー、赤ワイン

おすすめの食べ物

  • 豆腐、茶碗蒸し、卵料理
  • 煮魚、蒸し魚(骨に注意)
  • 煮物(柔らかく煮たもの)
  • うどん、そうめん、柔らかいパスタ

食事のコツ

  • 仮歯の反対側で噛む:特に奥歯の仮歯の場合、反対側を使うことで仮歯への負担を軽減できます
  • 前歯で噛み切らない:前歯の仮歯がある場合、あらかじめ一口サイズに切っておきましょう
  • ゆっくり食べる:急いで食べると、誤って硬い部分を噛んでしまうことがあります

歯磨き・メンテナンス方法

仮歯期間中の口腔ケアは、治療成功の鍵を握る重要なポイントです。

毎日の歯磨きの基本

  • 必ず1日3回(毎食後)磨く:食後の細菌増殖を防ぎます
  • 優しく丁寧に:力を入れすぎると仮歯が外れる原因になります
  • 仮歯と歯肉の境目を重点的に:この部分にプラーク(歯垢)が溜まりやすいです

推奨される清掃器具

  • 歯ブラシ:柔らかめ〜ふつう、ヘッドサイズは小さめ
  • デンタルフロス:使用可能だが、上から引き抜くのではなく、横から抜く
  • 歯間ブラシ:すっと入るサイズを選ぶ
  • 電動歯ブラシ:弱モードまたはソフトモードで使用可能

定期メンテナンスの重要性

仮歯期間中は、通常1〜2週間に1回の頻度で歯科医院でのチェックが必要です。歯科衛生士による専門的なクリーニング(PMTC)により、自分では取れないプラークや歯石を除去します。

仮歯中の注意点|食事・歯磨き・トラブルを防ぐポイント

スポーツ・運動

  • 手術後1〜2週間:激しい運動は避け、安静を心がけてください
  • コンタクトスポーツ:マウスガードの使用を検討しましょう
  • ジムやランニング:軽度の運動は問題ありません

喫煙・飲酒

喫煙は、インプラント治療の最大の敵です。ニコチンは血管を収縮させ、骨の治癒を大幅に遅らせます。喫煙者のインプラント失敗率は非喫煙者の約2倍というデータもあります。最低でも手術前2週間〜手術後2週間は禁煙をお願いしています。

飲酒は、手術後2〜3日は完全に禁酒し、その後は適量(1日ビール中瓶1本程度)であれば可能です。

旅行・出張

手術から1〜2週間経過して傷口が安定していれば、旅行や出張も可能です。ただし、歯科医院の連絡先を控えておくことをお勧めします。

痛み・違和感がある場合の対処

正常な範囲の症状

  • 術後2〜3日の軽い痛み
  • 仮歯装着直後の違和感
  • 軽い噛み合わせの違和感(数日で慣れる)

注意が必要な症状(すぐに歯科医院に連絡を)

  • 強い痛みが3日以上続く、または日に日に悪化する
  • 腫れが1週間以上引かない
  • 38度以上の発熱
  • 膿が出る

痛みへの対処法

  • 処方された鎮痛剤を指示通り服用
  • 冷やしすぎない(濡れタオルで軽く冷やす程度)
  • 安静にする

仮歯のトラブル対応

仮歯が取れた・壊れた時の対処法

仮歯が脱落してしまった場合

落ち着いて、以下の手順で対処してください:

ステップ1:仮歯を保管する

  • 脱落した仮歯を清潔なティッシュやビニール袋に包んで保管

ステップ2:すぐに歯科医院に連絡

  • できれば当日、遅くとも翌日までに受診

ステップ3:自分で戻そうとしない

  • 市販の接着剤や瞬間接着剤は絶対に使用しない

ステップ4:傷口を保護する

  • 優しく水でうがい(強くブクブクしない)
  • 食事は柔らかいものを反対側で食べる

仮歯が取れやすい人の特徴と対策

  • 咬合力が強い→ナイトガード(就寝時のマウスピース)の使用
  • 歯ぎしり・食いしばりの習慣→同上
  • 硬いものを好んで食べる→食習慣の見直し

仮歯からの異臭・口臭が気になる場合

原因

  • 仮歯と歯肉の微小な隙間に食物残渣が詰まる
  • 清掃不足によるプラークの蓄積
  • まれに感染の兆候

対策

  • 食後は必ずうがい・歯磨き
  • デンタルフロスや歯間ブラシで隙間を丁寧に清掃
  • 定期検診でのプロフェッショナルクリーニング

仮歯の状態で治療を中断するリスク

なぜ治療を完了させる必要があるのか

  • 仮歯は一時的使用を想定(長期使用に耐える強度がない)
  • 劣化・破損のリスク増大
  • インプラント体への悪影響
  • 感染リスクの増加

最悪の場合、インプラント体が脱落し、再手術が必要になることもあります。結果として、より高額な費用と時間がかかることになります。

よくある質問(Q&A)

Q. 仮歯で食事は普通にできますか?

A. 柔らかいものであれば問題なく食事できます。ただし、硬いものや粘着性のあるものは避けてください。仮歯の反対側で噛むことを意識すると、より安全です。

Q. 仮歯は保険適用されますか?

A. インプラント治療は基本的に保険適用外のため、仮歯も保険は適用されません。ただし、医療費控除の対象となります。

Q. 仮歯の見た目は自然ですか?周りにバレませんか?

A. 前歯の仮歯は、通常の会話距離では天然歯とほとんど見分けがつかないほど自然な仕上がりです。よほど至近距離でなければ気づかれることはありません。

Q. 喫煙者は仮歯期間中タバコを吸えますか?

A. 喫煙はインプラント治療の最大の敵です。最低でも手術前2週間〜手術後2週間は完全禁煙をお願いしています。理想的には、これを機会に禁煙されることを強くお勧めします。

Q. 仮歯を長期間使い続けるとどうなりますか?

A. 仮歯は一時的使用を想定しているため、長期使用すると劣化・破損のリスクが高まるだけでなく、インプラント体に過度な負担がかかります。必ず治療を完了させてください。

まとめ:仮歯期間を快適に過ごすために

インプラント治療における仮歯は、単なる「つなぎ」ではなく、治療成功のための重要なステップです。

重要ポイントの再確認

✓ 仮歯はオッセオインテグレーションを守るための安全装置
✓ 使用期間は3〜6ヶ月、費用は1〜5万円程度
硬いもの・粘着性のあるものは避ける
優しく丁寧な歯磨きで清潔を保つ
✓ 仮歯が取れた・壊れた場合はすぐに受診
治療を途中で中断しない

治療成功のカギ

  • 定期検診を必ず受ける
  • セルフケアを徹底する
  • 疑問や不安があればすぐに相談
  • 禁煙を心がける

仮歯期間は、確かに少し不便に感じることもあるかもしれません。しかし、この期間はあなたの口腔内で「新しい歯の根っこ」が育っている大切な時間なのです。

私たち歯科医療従事者は、患者さんが快適に仮歯期間を過ごし、最終的に美しく機能的な歯を手に入れられるよう、全力でサポートいたします。

わからないこと、不安なことがあれば、どんな小さなことでも遠慮なくご相談ください。一緒に、理想の笑顔を手に入れましょう。

明敬会はなるべく短い期間で治療を完了するよう努めています。

明敬会では、仮歯の弱さによるリスクを最小限に抑えるため、治療期間の短縮に努めています。当院の強みは「フラップレスインプラント」—メスを使わない低侵襲手術で、痛み・腫れ・出血が少なく、治療完了までの期間を短縮します。これにより仮歯の装着期間も減少し、患者様の負担を軽減します。インプラント治療をご検討の方は、ぜひ一度ご相談ください。

参考文献
  1. 大野 康亮, 松井 義郎, 今井 智子, 山下 夕香里, 道 健一. “インプラント義歯による咀嚼ならびに構音機能の再建” 頭頸部腫瘍 1995 年 21 巻 3 号 p. 501-506
  2. 村松 透, 萩原 芳幸, 檜山 礼秀, 小泉 政幸, 五十嵐 孝義. “歯科インプラントに関するアンケート調査” 日本口腔インプラント学会誌 1999 年 12 巻 2 号 p. 262-
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