フラップレスインプラント手術 | 監修:東京日本橋デンタルクリニック
書籍紹介

フラップレスインプラントとはFlapless Implant

フラップレスインプラントでは、事前にCTでインプラントを埋め込むところを確認し、さらにコンピュータシミュレーションで、どこまでインプラントを埋め込むかを決定します。そして、CTとコンピュータシミュレーションで確定したインプラントを埋め込むポジションへの埋没を成功させるために、手術用ガイドを作製します。

その結果、歯肉の切開、剥離、縫合をすることなくインプラントを埋め込むことができるようになります。

フラップレス(無切開・無剥離・無縫合)手術と通常手術の流れ・比較

通常手術
メスで切開メスで切開
器具で歯茎を骨から剥がして、骨面が直視できるようにする
歯茎に小さい穴をあける
ドリリング→埋入ドリリング → 埋入
2回法埋入後、キャップを歯茎の下に入れる2回法が多いため、4~6か月後の2次手術(再度,切開・縫合)が必要
縫合縫合
・手術後、1~2週後に抜糸が必要
・4~6か月後の2次手術(再度,切開・縫合)が必要
フラップレス手術
歯茎に小さい穴をあけるパンチ、バーなどで歯茎に小さい穴をあける
剥離(骨から歯茎をはがすこと)は無し
ドリリング→埋入ドリリング → 埋入
1回法埋入後、キャップを歯茎の上に出す1回法が多いので、4~6か月後の2次手術(再度、切開・縫合)が不要な場合が多い
縫合は無し
・抜糸無し
・4~6か月後の2次手術(再度、切開・縫合)が殆ど不要

フラップレスインプラントの
メリットMerit

フラップレスインプラントには、非常に多くのメリットがあります。1つずつ具体的にご紹介します。

  1. 精神的な負担を軽減できる
    歯茎を切開してインプラントを埋め込むことに、不安を感じる方は少なくありません。歯茎を切開しないことにより、精神的な負担を軽減できます。精神的な負担を軽減できれば、歯科医院にマイナスのイメージを持つことなく、治療後もしっかりメンテナンスに通っていただけます。
  2. 全身疾患のある方でも受けられる
    糖尿病や高血圧などの全身疾患がある場合、内容によっては手術を受けていただけません。フラップレスインプラントは身体への負担が少ないため、全身疾患がある方でも受けていただける可能性が高くなっています。
  3. 体力の消耗が少ない
    フラップレスインプラントの手術は、従来の手術と比べて短時間で行えます。そのため、体力の消耗を抑えられます。体力に自信がないため、手術後の体調を懸念している方もご相談ください。
  4. 治療回数が少ない
    フラップレスインプラントは、切開しないため縫合が不要です。縫合しなくてよいということは、抜糸のための通院が不要ということです。また、2次手術も不要なため、少ない治療回数で済みます。
  5. 出血量・腫れ・痛みを抑えられる
    従来のインプラント治療と比べて傷が小さいため、それだけ出血量を抑えられます。さらに、骨から歯肉を剥がさないため、術後の腫れもほとんどありません。また、麻酔が切れてからの痛みも少ないため、術後の生活への影響を抑えられます。
  6. 審美性に優れている
    フラップレスインプラントは、従来のインプラントに比べて歯肉が下がりにくくなっています。そのため、審美性にも優れていると言えます。

フラップレスインプラントの
デメリットDemerit

フラップレスインプラントには、デメリットもあります。治療を受けたことを後悔しないように、しっかり確認していただくことが大切です。それでは、フラップレスインプラントのデメリットを詳しくご紹介します。

  1. 経験と技術が必要
    フラップレスインプラントの手術では、骨を直接見ることができません。そのため、あごの骨の形を把握しづらく、インプラントを適切な位置に埋め込むことが難しいのです。具体的には、綿密な事前のCTシミュレーションが必要不可欠です。さらに、インプラントの埋没時の深さや方向をうまくコントロールするために、高い技術が必要となっています。
  2. 費用が高くなる場合があります。
    サージカルステントという、シミュレーション通りにインプラントを埋め込むためのガイドプレートがあります。インプラント手術の成功率を高められる可能性がありますが、治療費が高くなります。
  3. 途中で切開手術に変わる場合がある
    手術前のシミュレーションと実際の状態に大きな差がある場合は、通常の切開手術に切り替える場合があります。
  4. 適用できない場合がある
    フラップレスインプラントは、歯肉と骨の状態によっては適用できません。事前の検査で問題がないと推測されても、手術が始まってから適用できないことが発覚する場合もあります。

フラップレスインプラントの
手術の流れFlow

フラップレスインプラントは、通常のインプラントと少し異なる流れとなっています。フラップレスインプラントを受けていただくことが決まりましたら、次のような流れで進めていきます。

  1. カウンセリング
    フラップレスインプラントの手術の方法や費用についてわかりやすくご説明いたします。そして、患者様の健康状態について確認させていただき、治療を行えるかどうか判断いたします。不明な点や不安なことなどがありましたら、カウンセリングの際にご遠慮なくご相談ください。
  2. レントゲン・CT撮影
    どこにインプラントを埋め込むか、口腔内の状態を確認する必要があります。そのためにレントゲン・CTの撮影をいたします。レントゲンだけでは二次元的な解析になってしまう為、CTで顎の状態を正確に把握いたします。CT撮影には別途料金はかかりません。
  3. 麻酔
    インプラント治療の際には、歯肉に麻酔をかけます。麻酔注射の痛みを心配される方が多いのですが、当院ではゆっくり麻酔をかける麻酔器を使用しておりますので、痛みはほとんどありません。
  4. 歯肉に穴を開ける
    ハンコを押すような形で歯肉パンチを使って歯肉に穴を開けます。もちろん、麻酔後に行うので痛むことはありません。
  5. 骨に穴を開ける
    ドリルを使用し骨に穴を開け、広げていきます。
  6. インプラントを埋め込む
    骨に開けた穴にインプラントを少しずつ埋め込んでいきます。フラップレスインプラントでは、この段階に入ってもほとんど出血しません。
  7. 予後の確認
    インプラントを埋め込んでから1~3日後に再診いたします。その際には、出血や腫れの有無を確認し、インプラントを埋め込んだところを消毒します。
  8. 仮歯の装着
    インプラントと骨が繋がるには、約3ヶ月はかかるため、それまでは仮歯を装着しなければなりません。仮歯は、その日のうちに作成できるのでご安心ください。費用については本数によって異なります。
  9. かぶせ物(上部構造)を選ぶ
    インプラントが骨としっかり繋がったことを確認したら、次はかぶせ物(人工歯)を選んでいただきます。当院では、審美性に優れたハイブリッド、ジルコニアなどのセラミックを取り扱っています。
  10. メンテナンス
    インプラント治療は、土台がしっかりした人工歯根を手に入れる治療法です。しかし、ケアを怠るとインプラントの状態が悪くなり、トラブルが起こる可能性があります。そのため、3ヶ月と6ヶ月に定期検診を受けていただき、経過を診させていただいています。また、それからも定期的にメンテナンスに通っていただくとともに、セルフケアもしっかり行うようにしましょう。

フラップレスインプラントは、全てのケースに適用できるわけではありません。当院では、心身への負担が少ないフラップレスインプラントを選択される患者様が多く、約9割をフラップレス術式で行っておりますが、インプラントの本数や治療計画などの関係で、通常のインプラント治療が必要となるケースもあります。

また、フラップレスインプラントはインプラントを埋め込む方向が悪いと、太い血管や神経を傷つけてしまい、トラブルが起こることも考えられます。このように、フラップレスインプラントは簡単な治療法ではありません。経験豊富な歯科医師による診断と施術が必要なため、実績が豊富な歯科医院で行うことをお勧めいたします。

フラップレス手術の失敗と回避法

フラップレス手術での失敗は、歯茎(歯肉)を切開・剥離する通常のインプラント手術の失敗と基本的には同じものですが、フラップレス手術は「顎の骨を直視できないため、骨の形が把握しにくい」事がデメリットでもあり、それに起因してリスクが高くなりますのでフラップレス手術の経験、実績が少ない場合は避けた方が良いでしょう。

1.埋入角度や深さによる失敗



インプラントを埋入する位置や角度、深さによる失敗は、「顎骨外に穿孔(あごの骨の外に突き抜けてしまう)」「神経血管に接触損傷(周囲の神経や血管に当たってしまう)」「隣在歯に接触(周囲の歯の根っこに当たってしまう)」「上顎洞迷入(上あごを貫通して副鼻腔=上あごの上にある空洞の中にインプラントが入ってしまう)」などがあり、これらの失敗は回避しなければなりません。

フラップレス手術は身体への負担が少ない低侵襲ですが、全く痛く無いわけではなく4~6mm程度の穴から器具での触診と、CT画像から得た骨の形態を元に予測していく必要があり、方向、深さのコントロールは難しくなります。

一方、通常の切開での手術法では広い範囲を切開し、骨面から歯茎(歯肉)を剝離する面積が多くすることで、骨を直視できる範囲が広がり、骨の形態を把握しやすくなりますが、骨から歯茎(歯肉)をはがした範囲が広いほど、腫れや痛みが大きくなり予後が悪い傾向になりやすいです。​

埋入の角度や深さによる失敗の回避法


フラップレス手術での失敗を避けるには直径4mm、10mmの長さのインプラントを埋入する場合に、10mmの深さまでいきなり骨を形成するのは危険です。サージカルガイド(ステント)の有無に関わらず、段階的に骨を深く形成していくことが最も重要になります。

サージカルガイドは、CTによるシミュレーションを元にした、インプラントの埋入角度や深さを手術に反映させるためのテンプレートですが、サージカルガイドを使用すれば安全で問題ないという訳ではありません。誤差や不適合がある場合があるので、サージカルガイドを疑うことなく、一気に所定の深さまで骨を削ることはリスクが大きく、大変危険です。

具体的には、まず1~2mm直径のバーで約3~4mm位の深さまで骨を形成し、深さや直径に余裕のある状態で金属の棒を骨に入れてCT撮影し、骨との位置を把握して再度シミュレーションを行い、骨内に収まり、神経、血管に接触しないことを確認します。

そして、バーの直径は細いままで、深さを約6mm位まで形成していきます。場合によりますが、ここで改めてCT撮影を行い骨との位置を確認します。​問題なければ、最終的な深さまで骨を形成します。その後、バーの直径を太くして骨を形成しインプラントを埋入します。

​このように途中でCT撮影をして、角度や深さを確認・修正できるように2~3ステップで段階的に骨を形成していくことにより、フラップレス手術の失敗を回避します。その都度、削り続けた場合にどの方向に行くのかシミュレーションしながらインプラントを最終位置に入れていきますので、骨内から外れたり、神経・血管への接触を防ぎます。

2.骨の火傷をしやすい(骨を冷却しにくい)​


骨密度の高い硬い骨は、骨を形成しても出血が少なく​長いインプラントを入れる場合に先端まで水が届きにくいという特徴があります。

フラップレス手術は小さい穴から埋入を行うため、水での冷却がしにくくなります。​特にサージカルガイド(ステント)を使用したフラップレス手術では、さらに水が骨に到達しにくいので冷却が難しくなります。​

骨の火傷の回避法​

「骨密度が高い、インプラントが長い、フラップレス手術・サージカルガイド使用」これらの条件が重なる場合に最も注意が必要で、オペアシスタントが追加注水を行い、切削バーを骨に押し当てないように上下動を頻繁に行い、あまり長いインプラントは使用しないなどの対策をする事で骨の火傷による痛みや、結合しないなどの失敗を回避します。

フラップレス手術の実績が多い医院とは?​


経験も大切ですが、いかに複雑な手術を行わないでシンプルにインプラント手術を行うようにしているかが重要です。​

インプラントの手術では、骨移植(骨造成)や歯肉移植が必要なケースにおいては歯茎(歯肉)の切開は必要になりますが、​特別な長さや太さのインプラントを使用することで骨移植(骨造成)を回避し、シンプルにインプラントを埋入することが可能になります。様々な直径、長さのインプラントを用意しておくことによってフラップレス手術の適用範囲が広がります。​

つまり、「細いインプラントや短いインプラントを取り揃えているか?」がフラップレス手術の実績に直結すると言っても過言ではありません。当院では細いインプラントは直径2.5mm、3.0mm(一般的には3.3mm、3.5mm)、​短いインプラントEXTRA SHORT4mm(一般的には8mm、ショートインプラントを導入している医院でも6mmが多い)​のインプラントを使用して骨造成を極力回避しています。​

また、骨を拡大する手術法を導入しているかなどもトラブルを避けるために重要なポイントです。​フラップレス手術の費用は、サージカルガイド(ステント)を使用しなければ、追加費用は必要ありません。