インプラント治療は歯を失った場合に有効な治療方法ですが、適切なケアが行われない場合、インプラント周囲炎という炎症性の問題が発生するリスクがあります。
この記事では、インプラント周囲炎について発生する原因や症状、そして放置することのリスクについて徹底解説します。また、早期発見のためのセルフチェック方法や、予防策、必要に応じた治療法についてもご紹介します。
インプラント周囲炎に関する理解を深め、お悩みを解消していきましょう。

監修者

医療法人社団 明敬会
滝澤 聡明 | Toshiaki Takizawa
1968年生まれ、東京都出身。93年、神奈川歯科大学卒業後、国際デンタルアカデミー入校。国際デンタルクリニック勤務の後、96年にタキザワ歯科クリニック開業。98年、日本大学歯学部生理学教室に入室し、2004年に博士号取得。同年、医療法人社団明敬会を設立し、理事長に就任。2006年湘南藤沢歯科開設。2019年東京日本橋デンタルクリニック開設。
・インプラント周囲炎と通常の歯周病の違い
・インプラント周囲炎の症状や原因
・インプラント周囲炎のセルフチェックと予防法
インプラント周囲炎とは?

インプラント周囲炎は、歯科インプラントの周りに生じる特定の炎症状態です。インプラントは、失われた天然歯を補うために顎の骨に埋め込まれる人工の根です。このインプラントと顎骨の間、または周囲の歯肉に炎症が起きることがあります。
この炎症は、細菌による感染が主な原因であり、感染が起こると、歯肉が赤く腫れたり、感染部位から膿が出るなどの症状が現れます。また、炎症が進むと、感染はインプラントを支える骨にまで及び、骨吸収を引き起こすことがあります。
※1 参考文献
インプラント周囲炎はインプラント治療後の合併症で最も大きな割合を占めていることが報告されている.インプラント周囲炎の特徴は,周囲組織の発赤・ 腫脹・出血・排膿・歯槽骨吸収,細菌感染による炎症性病変であり,さらにオーバーロード等の要因も加わり進行するものと考えられる.
インプラント周囲炎に対する治療法 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsoi/30/4/30_259/_pdf
インプラント周囲炎と通常の歯周病の違いは?
インプラント周囲炎と通常の歯周病の違いには、大きく分けて①組織構造、②病理学、③治療の難易度、④予後と4つの違いがあります。

インプラント周囲炎はどれくらいの割合で発生する?
インプラント周囲炎の発生率は研究によって異なりますが、一般的にはインプラントを受けた人の約10%から20%の間で発生するとされています。しかし、いくつかの研究では、この割合がもっと高いことも示唆されており、特定のリスク要因を持つ患者群ではさらに高くなる可能性があります。
長期間にわたる追跡調査では、インプラントを受けた後の5年から10年で、約22%から43%の患者に何らかの形でインプラント周囲炎が発生することが報告されています。
※2 参考文献
その罹患率は研究によって異なり,また有効な研究論文数も必ずしも十分とは言えないが,個々のインプラント単位で約10~43%,患者単位で約19~56%と報告されている。
補綴装置・歯の延命のためにインプラント周囲炎治療 https://www.jstage.jst.go.jp/article/ajps/7/1/7_28/_pdf
インプラント周囲炎の進行と症状
インプラント周囲炎は通常、二段階で進行します。初期段階をインプラント周囲粘膜炎、進行した段階をインプラント周囲炎と呼びます。それぞれの段階における症状について詳しく解説します。
①インプラント周囲粘膜炎
インプラント周囲粘膜炎は、インプラント周囲の軟組織(粘膜)のみに炎症が限局している初期段階です。
症状
・歯肉の赤み:インプラント周辺の歯肉が通常よりも赤く見えます。
・腫れ:感染部位の歯肉が腫れ、触ると柔らかく感じられることがあります。
・出血:歯ブラシをかけたり、歯間ブラシを使用したりする際に、歯肉からの出血が見られることがあります。
・痛み:通常は軽度ですが、触れたり圧力がかかったりしたときに痛みを感じることがあります。
② インプラント周囲炎
インプラント周囲炎は、インプラント歯周粘膜炎が進行し、インプラントを支える骨にも炎症が及び始めた状態です。
症状
・進行した歯肉の赤みと腫れ:歯肉の状態がさらに悪化し、色が濃くなり、腫れが増します。
・慢性的な出血:軽い刺激で歯肉から出血しやすくなります。
・悪臭:感染した部位から不快な臭いが発生することがあります。
・痛み:痛みが増し、食事や話す際に不快感を感じることがあります。
・プラークと歯石の蓄積:細菌のバイオフィルムが形成され、清掃が困難になります。
・骨の吸収:レントゲン検査で確認できる骨の減少が見られ、これがインプラントの安定性に影響を与えます。
インプラント周囲炎になる原因は?
① 喫煙

喫煙は口腔内の血流を減少させ、組織の修復能力を低下させます。これにより、インプラント周囲の組織が細菌感染に対して脆弱になり、インプラント周囲炎のリスクが高まります。また、喫煙は歯肉の炎症を悪化させます。
※3 参考文献
喫煙は,付着の喪失を伴う慢性歯周炎で,糖尿病と並び歯周炎の重症化に関与する「リスクファクター」である。インプラント周囲炎に関しても喫煙との間に潜在的な関連性を報告している研究は数多くあり,喫煙者は非喫煙者よりも歯槽骨の減少量が大きいことが報告されている
インプラント周囲炎の診断・リスク因子・治療に関するエビデンスと 今後の課題 https://www.jstage.jst.go.jp/article/perio/65/3/65_81/_pdf
② 全身の病気がある場合
全身疾患、特に免疫機能に影響を及ぼす糖尿病や貧血疾患などは、体の抵抗力を低下させ、感染症に対する脆弱性を高めます。特に糖尿病は血糖管理が不適切な場合、インプラント周囲炎だけでなく、歯肉病のリスクが増加します。
③ 歯ぎしりや食いしばり
歯ぎしりや食いしばりは、インプラントに過度の力がかかってしまいます。周囲の骨や歯肉にストレスを与え、このような力の過負荷は、インプラントの周囲組織の炎症を引き起こす原因になります。
④ 歯周病の治療が不十分だった
歯周病が適切に治療されないままインプラント手術を行うと、残存している細菌が新たなインプラント周囲に感染を引き起こす可能性があります。また、元々の歯周病の存在がインプラントの健康に悪影響を及ぼすこともあります。
※4 参考文献
Karoussis らが10 年間の前向きコホート研究を行い,歯周炎の既往群は非既往群に比較して,インプラ ント治療の成功率が有意に低い,換言すれば,歯周炎患者は有意に高い確率でインプラント周囲炎に罹患していることが報告されて以来,インプラント周囲炎の疫学研究では「歯周炎の既往」の有無が常に評価されてきた。 Schwarz らも「歯周炎の既往」のある患者はインプラント周囲炎の進行リスクが高いと報告した。 Dreyer らはシステマティックレビューを行い,歯周炎の既往あるいは罹患はインプラント周囲炎のリスク因子であると結論付けた。
インプラント周囲炎の診断・リスク因子・治療に関するエビデンスと 今後の課題 https://www.jstage.jst.go.jp/article/perio/65/3/65_81/_pdf
⑤ セルフケアを怠った
口腔内が清潔に保たれない場合、プラーク(歯石)が蓄積しやすくなり、インプラント周囲の炎症の原因となります。定期的なブラッシングとフロス使用が必要で、これを怠ると細菌が増殖し、最終的にはインプラント周囲炎を引き起こす可能性があります。
※5 参考文献
インプラント周囲粘膜炎において,プラークコントロールの不良がリスク因子として関与していることは,ヒトにおける実験的インプラント周囲粘膜炎モデ ルにおいて示されている。口腔清掃を停止するとインプラント周囲粘膜に炎症が生じ,口腔清掃を再開すると炎症が消退する。
インプラント周囲炎の診断・リスク因子・治療に関するエビデンスと 今後の課題 https://www.jstage.jst.go.jp/article/perio/65/3/65_81/_pdf
インプラント周囲炎のセルフチェック

以下の項目を定期的にチェックしましょう。異常を感じたら、早めに歯科医院を受診することをお勧めします。
①視覚的チェック
歯肉の色
インプラント周囲の歯肉が健康なピンク色から赤みがかった色に変わっていないか、赤みが強くなっていないか
腫れ
歯肉が腫れているか、または異常に厚くなっている部分がないか。
歯肉の形状
歯肉が下がっていないか、インプラントの金属部分が見えていないか
②触診
圧痛
指で軽く歯肉を押してみて、通常よりも柔らかいまたは硬い部分がないか、またインプラント周囲を軽く押してみて痛みがあるかどうか
熱感
周囲の歯肉が熱くなっていないか
③歯肉の出血チェック
ブラッシング時の出血
歯磨きをした後、歯ブラシに血が付着していないか、または水でうがいをした後の水が赤くなっていないか
フロスまたは歯間ブラシ使用時の出血
インプラントの周りを清掃する際に、歯間ブラシやフロスを使って出血がないか
④異常な臭いや味
口臭の変化
通常と異なる悪臭が自分で感じられるか、または家族や友人から指摘されたか
味覚の変化
インプラント周囲に金属味や異味が残ったり感じたりしないか
⑤インプラントの安定性
動揺の有無
インプラントが以前より動くようになっていないか。歯を噛み合わせたときや、指で軽く触れたときにインプラントが不安定に感じないか
これらのチェックを毎日の歯磨き時や、少なくとも週に1回程度行いましょう。鏡を使って、よく見えるように確認することが大切です。
チェック項目に一つでも該当する場合は、歯科医院での精密検査をお勧めします。
セルフチェックは重要ですが、症状が現れる前に問題を発見できる専門的な検査に取って代わるものではありません。定期的な歯科検診を必ず受けましょう。
インプラント周囲炎の予防法

① メンテナンスや定期検診を怠らない
定期的なプロフェッショナルクリーニング
歯科医院で定期的に専門的なクリーニングを受けることで、プラークや歯石の除去を徹底し、インプラント周囲の健康を維持します。
定期検診
定期的な歯科検診を受けることで、初期の問題を発見し、適切な時期に治療を行うことができます。歯科医はインプラントの安定性や歯肉の状態を評価し、必要に応じて治療計画を立てます。
② 禁煙をする
喫煙は歯周病やインプラント周囲炎のリスクを高めることが知られています。喫煙により口内の血流が悪化し、組織の回復能力が低下するため、禁煙することで、リスクを大幅に低減できます。
③ 生活習慣を整える
バランスの取れた食事
栄養豊富な食事を摂ることで、全体的な健康と免疫システムを強化し、口腔内環境を改善します。特に歯肉と骨の健康に必要なビタミンCやカルシウムを豊富に含む食品を接種しましょう。
十分な水分摂取
十分な水分を摂ることで口内の乾燥を防ぎ、細菌の蓄積を減らすことができます。
適切な睡眠とストレス管理
過度のストレスは免疫機能を低下させる可能性があるため、適切な管理が重要です。体の自然な治癒力と免疫システムを支え、口腔内を健康に保つことができます。
もしインプラント周囲炎になったら?
① 放置してしまうとどうなる?
骨の破壊
インプラント周囲の炎症が進行し、支持する骨が破壊されます。これによりインプラントの安定性が低下し、最終的にはインプラントが失われることがあります。
他の歯への影響
炎症が広がり、隣接する天然歯にも悪影響を及ぼす可能性があります。
全身への影響
口腔内の炎症が全身に影響を与えることがあり、特に心臓血管疾患や糖尿病などの全身疾患のリスクを高める可能性があります。
② インプラント周囲炎の治療法
インプラント周囲炎の治療法は、症状の重度によって2つの治療法があります。
非外科的治療(軽度の場合)
・プロフェッショナルクリーニング
歯科医が専門的な器具を使用してインプラントと周囲の歯肉の下のプラークと歯石を除去します。
・抗生物質の処方
感染を抑え、炎症を軽減するために局所的または全身的に抗生物質を使用することがあります。
・リンスとゲル
抗菌性の口腔リンスやゲルを使用して、日常的な口腔衛生の一環として感染の管理を行います。
外科的治療(重度の場合)
・フラップ手術
歯肉を切開して開き、直接インプラントとその周囲の骨を治療します。感染した組織の徹底的な除去と骨の形成を助ける手術を行います。
・再生手術
破壊された骨や組織を再生するために、骨移植材や組織刺激材料を使用することがあります。
・インプラントの再配置または交換
損傷が極端に進行した場合、既存のインプラントを取り除き、新しいインプラントを配置することが必要になることもあります。
※6 参考文献
インプラント周囲炎の治療は,細菌感染であることから罹患部の炎症性病変の消退を図ることが第一である.そのためには,同部罹患部だけでなく残存歯の歯周病の診断ならびに治療も同時に実施する必要性がある.炎症の消退が認められた後に,歯周病治療同様に再評価を行い,適応に応じて外科手術の選択を行うべきである
インプラント周囲炎に対する治療法 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsoi/30/4/30_259/_pdf
明敬会はインプラント周囲炎のリカバリー治療を行っています。

インプラント治療は、十分な臨床経験を持つ歯科医師が衛生管理の整った専用の手術室で行う必要があります。環境が整っていない歯科医院でインプラント治療を受けると、インプラント治療の失敗のリスクが高まるでしょう。
また、インプラント周囲炎になったときの処置や定期的なメンテナンスも高いレベルで行える歯科医院を選ぶことが大切です。当院では、インプラントを長くお使いいただけるように、専任の歯科衛生士がインプラントのメンテナンスを行っております。
インプラントが脱落すれば再治療が必要になり、患者様に心身への負担や経済的な負担をおかけすることになります。当院では、患者様にインプラントを快適にお使いいただくために、様々な処置を高いレベルで行うことを心がけております。
インプラント治療後のお悩みに特化した、インプラントリカバリーサイトもございます。ぜひ一度ご相談ください。
1. 児玉 利郎,日本口腔インプラント学会 第30巻 4号,インプラント周囲炎に対する治療法
2. 荻原 芳幸,日補綴会誌 Ann Jpn Prosthodont Soc 7 : 28-36, 2015,補綴装置・歯の延命のためにインプラント周囲炎治療
https://www.jstage.jst.go.jp/article/ajps/7/1/7_28/_pdf
3~5. 蓮池 聡,今村 健太郎,高橋 慶壮, 林 丈一朗,安田 忠司,目澤 優,田中 真喜,児玉 利朗,辰巳 順一,日歯周誌 65(3):81-92,2023,インプラント周囲炎の診断・リスク因子・治療に関するエビデンスと 今後の課題
https://www.jstage.jst.go.jp/article/perio/65/3/65_81/_pdf
4. 蓮池 聡,今村 健太郎,高橋 慶壮, 林 丈一朗,安田 忠司,目澤 優,田中 真喜,児玉 利朗,辰巳 順一,日歯周誌 65(3):81-92,2023,インプラント周囲炎の診断・リスク因子・治療に関するエビデンスと 今後の課題
https://www.jstage.jst.go.jp/article/perio/65/3/65_81/_pdf
6. 児玉 利郎,日本口腔インプラント学会 第30巻 4号,インプラント周囲炎に対する治療法
