インプラント治療を考える際、年齢は重要な要因の一つですが、30代でのインプラント治療が早すぎるということはありません。
実際に、全体の健康状態や口腔内の条件が整っていれば、治療を受けることが可能です。
この記事では、30代でインプラント治療をするメリットやインプラント治療がおすすめな方について徹底解説します。30代のインプラント治療に関する理解を深め、お悩みを解消していきましょう。
監修者
医療法人社団 明敬会
滝澤 聡明 | Toshiaki Takizawa
1968年生まれ、東京都出身。93年、神奈川歯科大学卒業後、国際デンタルアカデミー入校。国際デンタルクリニック勤務の後、96年にタキザワ歯科クリニック開業。98年、日本大学歯学部生理学教室に入室し、2004年に博士号取得。同年、医療法人社団明敬会を設立し、理事長に就任。2006年湘南藤沢歯科開設。2019年東京日本橋デンタルクリニック開設。
・歯を失う原因やインプラント治療のメリット
・30代でインプラント治療がおすすめな人
・インプラント治療をする前にチェックしておくべきこと
30代でインプラント治療は早い?
歯を失う年齢の割合
歯の喪失は加齢とともに増加する傾向にあります。厚生省の「令和4年歯科疾患実態調査」によると、25~34歳で15.0%、35~44歳で23.6%の割合の人が歯を失っていると報告されています。この統計から、30代は歯の喪失が加速し始める重要な時期といえます。
歯の喪失原因としては、齲蝕(うしょく)や歯周病が主要因です。特に歯周病は20代後半から30代にかけて急増するため、この年代での予防と早期治療が極めて重要です。
※1 参考文献
令和4年歯科疾患実態調査 https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/62-17b_r04.pdf
30代で歯を失った人の割合
上記の表によると、30代で少なくとも1本以上の歯を喪失している人の割合は約24%に上ります。つまり、約4人に1人が30代で歯を失っているという計算になります。
この数字は決して低くはありません。歯の喪失は咀嚼機能や発音、さらには顔貌にも影響を与える可能性があるため、30代での歯の喪失は生活の質(QOL)に大きな影響を及ぼす可能性があります。
インプラントの対象年齢
インプラント治療は、骨の成長が完了している18歳以上であれば基本的に受けることができます。上限年齢の制限はありませんが、全身の健康状態や骨密度、口腔内の状況などを総合的に判断して適応を決定します。
歯を失う原因とは?
① 虫歯
虫歯は、歯を失う最も一般的な原因の一つです。口内の細菌が食べ物から糖分を摂取して酸を生成し、それが歯のエナメル質を溶かしてしまいます。これを放置すると、虫歯は歯のより深い部分へと進行し、最終的には歯の神経に到達し、重度の感染症を引き起こすことがあります。虫歯が進行すると、歯の構造が脆弱化し、最終的に抜歯が必要になる場合があります。
特に30代では、幼少期からの蓄積性虫歯や、ストレスや食生活の乱れによる新たな虫歯のリスクが高まります。
② 歯周病
歯周病は、歯を支える骨を破壊する病気で、成人の歯の喪失の主な原因です。歯垢(プラーク)とその後に形成される歯石(タルタル)が歯肉に炎症を引き起こし、放置すると歯肉が下がり、歯を支える骨が徐々に破壊されていきます。
歯周病は、初期段階では痛みを伴わないことが多いため、気づいた時には重度の状態になっていることがあります。早期発見と適切な治療が重要です。
仕事や育児のストレス、生活習慣の乱れなどにより30代は歯周病のリスクが高まる年代です。日本歯周病学会の調査によると、30代の約40%が何らかの歯周病症状を有しているとされています。
※2 参考文献
なお、日本人の歯を失う原因の第1位は歯周病(37%)となっており、歯周病罹患率は15-24歳が20% 、25-34歳で30% 、35-44歳で40%、 45-54歳は50%、そして55歳以上は55-60%という割合になっています。
特定非営利活動法人日本歯周病学会 https://www.perio.jp/
③ 破折
歯の破折は、事故や外傷、または長年の摩耗や過度な力がかかることで起こります。大きなひびが入ったり、歯が折れたりすると、修復が困難になり、特に、歯の根の部分が破損すると、歯を抜くしかなくなってしまう場合が多いです。
30代では、若年期のスポーツ外傷の影響や、ストレスによる歯ぎしりの増加などにより、破折のリスクが高まることがあります。また、長年の咬合負荷や過去の大きな修復処置により、歯の構造が弱くなっていることも破折のリスクを高めます。
このような原因で歯を失った場合、インプラント治療は有効な選択肢となります。続いて、インプラントのメリットやおすすめする理由について詳しく解説します。
インプラント治療のメリットとは?
① 自然な見た目と機能性
インプラントは天然の歯に非常に近い見た目と機能性を持っています。隣接する天然歯と色合いや形状を完璧に調和させることが可能なため、天然の歯に近い見た目を得られるメリットがあります。
また、インプラント体が顎骨と直接結合するため、天然歯と同じように咀嚼することができます。食事を快適に取れるだけでなく、発音にも影響を与えないため、自然な会話ができるようになります。
※3 参考文献
PJETURSSON らは, ITIインプラント治療を受けて5年から 15年(平均 経過年数 10.2年)の患者 104人(214本)のうち, 90%以上の患者が機能的かつ審美的な観点から十分 満足している.
インプラント治療に対する患者の意識調査 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsoi/19/4/19_478/_pdf
② 健康的な残存歯への負担が少ない
従来のブリッジ治療では、隣接する健康な歯を削って支えとする必要がありましたが、インプラントではその必要がありません。これにより、健康な残存歯を保護し、歯の健康を維持することができます。
失った歯を放置してしまうと、残存歯への負担が増大し、将来的な歯の喪失リスクが高まりますが、インプラント治療は隣接歯への影響が少ないため、より多くの自然な歯を守ることが可能です。
③ 寿命が比較的長い
適切なケアを行えば、インプラントは長期間使用することができます。他の歯科治療と比較しても、インプラントはその耐久性で知られており、多くの場合、適切にケアされたインプラントの15年生存率は90%以上とされています。定期的なメンテナンスと適切なケアを行うことで、20年以上問題なく機能しているケースも多数報告されています。
※4 参考文献
上部構造装着後に 20 年以上経過した患者 1,168 人を 対象としてアンケート調査を行い回答が得られた 509 人から以下の結果を得た.
1.インプラントの経過については「特に問題ない」 が 78%と最も多かった.
インプラント治療に対する患者の意識調査 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsoi/19/4/19_478/_pdf
④ 顎の骨が吸収されにくい
歯を失うと、その部分の顎の骨は徐々に吸収されてしまいます。これにより顔の形状が変わることもありますが、インプラントは咀嚼時の力を顎骨に伝えるため、骨密度の維持に役立ちます。インプラントにより骨量を維持することで、顔立ちを保つことができます。
30代でインプラント治療がおすすめな人
① メンテナンス・セルフケアに積極的
適切なメンテナンスとセルフケアを行うことで、インプラントを長期的に維持できます。定期的な歯科検診を欠かさず、正しいブラッシングとフロッシングを実践することが重要です。
30代は生活習慣が確立される時期であり、良好な口腔衛生習慣を身につけやすい年代です。この時期にインプラント治療をすることで、長期に渡って口腔内を健康に保つことができます。
② 喫煙をしない
喫煙はインプラントの失敗リスクを高める要因の一つです。喫煙により、口内の治癒能力が低下し、感染のリスクが増加します。非喫煙者であれば、インプラント治療後の回復が促進され、成功率が高まります。
※5 参考文献
本研究の結果から、非喫煙者のインプラント脱落率が3.56%であるのに対し、喫煙者の脱落率は7.14% であり、喫煙者の脱落率が有意に高いことが示された.
オッセオインテグレイテッド インプラントに対する喫煙の影響 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsoi/10/2/10_163/_pdf
③ コストパフォーマンスを重視する
インプラントは初期投資は高いものの、耐久性と機能性から見てコストパフォーマンスが高い選択です。30代のうちに投資することで、コストパフォーマンスの高い選択をすることができます。
④ 口内の健康を保ちたい方
インプラントは周囲の健康な歯に影響を与えずにすむため、口内全体の健康を保ちやすくなります。自然な歯と同様に機能し、適切なオーラルケアによって口内の健康を保つことができます。
⑤ 違和感なく食事・会話がしたい方
インプラントは自然な歯に非常に近い見た目と機能を持つため、違和感なく食事や会話を楽しむことができます。特に若い世代では、社会生活やプライベートでのコミュニケーションの場も多いため、インプラントにすることで食事や会話に関する不安なく、自信を持って社会生活を送ることができます。
インプラント治療にはデメリットやリスクがあることも理解しておく
インプラント治療は多くのメリットがある一方で、治療前に認識しておくべきデメリットやリスクも存在します。
① 治療費が高額
インプラント治療は他の歯科治療に比べて高額です。使用される材料のコスト、手術に必要な高度な技術、そして長期にわたるフォローアップが必要なためです。
一度に高額の治療費を支払うことは負担になる可能性があります。医療ローンなどの分割払いオプションを検討するのも一つの方法です。
② 保険適応外
日本の健康保険制度では、インプラント治療は保険適用外となっており、全額自己負担になる場合がほとんどです。これにより、経済的な負担が大きくなり、治療を受ける際の障壁となることがあります。他の生活費や将来への投資なども考慮しながら、治療費の捻出を計画的に行う必要があります。
③ 外科手術が必要
インプラント治療には顎の骨に穴を開けてインプラント体を埋め込む外科手術が必要です。手術にはリスクが伴い、患者の健康状態や骨の質によっては手術が困難な場合もあります。
④ 感染症のリスク
手術後や長期使用中に、周囲組織に感染が生じるリスクがあります。適切な術後ケアと定期的なメンテナンスが重要で、感染予防の重要性を理解し、適切な口腔衛生管理を行う必要があります。
※6 参考文献
歯科インプラント治療によるインプラント周囲炎,上顎洞炎などの病態は,①インプラント治療(抜歯,インプラント体埋入,上顎洞底挙上術)によりインプラント 周囲炎,上顎洞炎などの感染症を来す場合と,②患側の 他の上顎歯に慢性炎症性病変(根尖病巣など)が存在し,インプラント治療を契機に歯性感染症(歯周組織炎,歯性上顎洞炎など)を来す場合がある)
歯科インプラント治療に伴う合併症 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jibiinkoka/115/11/115_994/_pdf
⑤ 痛み・腫れ・出血がある
手術後は一時的に痛み、腫れ、出血が生じることがあります。これらは通常、数日から一週間で改善しますが、個人差があり、中には長引く場合もあります。術後の一定期間は仕事や日常生活に影響が出る可能性があることを理解しておく必要があります。
⑥ 医師に専門的な知識が必要
インプラント治療を成功させるには、歯科医師に高度な技術と専門的な知識が求められます。治療を受ける際は、十分な経験と実績を持つ専門医を選択することが重要です。
インプラント治療を検討する際には、これらのリスクやデメリットを十分に理解した上で、歯科医師と十分に相談し、、自分にとって最適な治療法を選択することが重要です。
インプラント治療をする前にチェックしておくべきことは?
インプラント治療は長期的な口腔の健康に関わる重要な決断です。30代の方々が治療を検討する際には、以下の点を十分にチェックしておくことが大切です。
① 自分の歯の現状を把握しておく
インプラント治療を受ける前には、自分の口内の状態を正確に把握しておくことが非常に重要です。歯科医師との相談により、口内の全体的な健康状態、残っている歯の数や健康度、顎の骨の質や量などを評価してもらいましょう。
30代は歯の喪失が始まる時期であり、残存歯の状態や全体的な口腔環境を把握することで、インプラント治療の必要性や適応性を正確に判断できます。また、将来的な口腔ケアの計画も立てやすくなります。
② 金属アレルギーがないか
インプラントにはチタンなどの金属が用いられることが多いですが、稀にアレルギー反応を示す場合があります。金属アレルギーの有無を確認することは、治療の安全性を高めるために非常に重要です。アレルギー反応を示す可能性がある場合には、それに適した材料を選択することが可能です。
※7 参考文献
歯科においてもチタンはインプラント体や顎再建用プレート、矯正装置などに用いられており、現在では治療用金属としてなくてはならない材料である。一方で、歯科インプラントによる皮膚炎や粘膜炎の報告だけでなく 1)、インプラント体の脱落やオッセオインテグ レーションの獲得不良を訴える患者の中にチタンアレルギーを示す例が報告されるようになってきた 2)。 最近では、アレルギーの既往がある患者は、インプ ラント治療の術前に金属アレルギー検査を受けるこ とが推奨されている 3)。
インプラント術前検査としてのチタンアレルギー検査の意義 https://ir.tdc.ac.jp/irucaa/bitstream/10130/3660/1/7_31.pdf
③ リスクやデメリットについて理解しておく
ご紹介したように、インプラント治療には多くのメリットがありますが、リスクやデメリットも存在します。
手術に伴う感染リスク、長期にわたる治療プロセス、高額な治療費、保険の適用外であることなどについて十分に理解し、納得した上で治療を進めることが重要です。
また、治療の成功率を高めるために、どのようなメンテナンスが必要かも確認しておくべきです。
明敬会は患者さまのQOL(クオリティ オブ ライフ)「生活・生命の質」の向上を目指しています。
歯は健康のバロメーターとして全身の健康状態を推し測ることができます。
歯の健康、つまりは「しっかり噛めること」がもたらす心身へのメリットは大きく、インプラント治療はQOLの維持・向上に大きく関係していると言えます。
患者さまが健康で幸せな生活が送れるよう責任をもって治療いたします。
1. 令和4年歯科疾患実態調査
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/62-17b_r04.pdf
2. 特定非営利活動法人日本歯周病学会
3. 竹下 文隆,森永 太,松井 孝道,阿部 成善,添島 義和,日本口腔インプラント学会 第19巻 4号,インプラント治療に対する患者の意識調査
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsoi/19/4/19_478/_pdf
4. 竹下 文隆,森永 太,松井 孝道,阿部 成善,添島 義和,日本口腔インプラント学会 第19巻 4号,インプラント治療に対する患者の意識調査
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsoi/19/4/19_478/_pdf
5. 山田 陽一,新美 敦,澤井 俊宏,渡邉 和代,日比野 祥敬,中井 英貴,本田 雅規,藤本 雄大,村上 斎,山家 誠, 鈴木 英治,粕谷 幸 生,松山 実,小関 健司,後藤 康之,竹内 学,川合 道夫 ,小原 仁,日比 英晴,上田 実,日本口腔インプラント学会 第10巻 2号,オッセオインテグレイテッド インプラントに対する喫煙の影響
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsoi/10/2/10_163/_pdf
6. 佐藤 公則,歯科インプラント治療に伴う合併症
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jibiinkoka/115/11/115_994/_pdf
7. 北川 雅恵,大林 真理子,長﨑 敦洋,柳沢 俊良,新谷 智章,香川 和子,安部倉 仁,日浅 恭,久保 隆靖,武知 正晃,小川 郁子,栗原 英,日本口腔検査学会雑誌, 7(1): 31-34,インプラント術前検査としてのチタンアレルギー検査の意義