インプラントに麻酔は必要?麻酔の必要性や種類、メリットデメリットまで徹底解説!

インプラント手術は、顎骨に人工歯根を埋め込む外科的処置を伴うため、麻酔が欠かせません。しかし、麻酔にはさまざまな種類があり、治療内容や治療を受ける方の体調、精神的な状態によって最適な方法が異なります。

この記事では、それぞれの麻酔法の特徴、メリット・デメリット、選び方のポイントについて徹底解説します。

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監修者

医療法人社団 明敬会

滝澤 聡明 | Toshiaki Takizawa

1968年生まれ、東京都出身。93年、神奈川歯科大学卒業後、国際デンタルアカデミー入校。国際デンタルクリニック勤務の後、96年にタキザワ歯科クリニック開業。98年、日本大学歯学部生理学教室に入室し、2004年に博士号取得。同年、医療法人社団明敬会を設立し、理事長に就任。2006年湘南藤沢歯科開設。2019年東京日本橋デンタルクリニック開設。

この記事でわかること

・インプラント手術に麻酔が必要な理由

・各麻酔法の特徴とメリット・デメリット

・適した麻酔の選び方と術後の対応

目次

インプラント治療における麻酔の必要性

インプラント治療は、顎骨に人工歯根(インプラント)を埋入する外科的処置を伴うため、適切な麻酔が必要不可欠です。

①痛みの抑制

インプラント手術では、歯肉切開や骨へのドリル操作が行われるため、術中に痛みを伴う可能性があります。適切な麻酔を行うことで、手術中の痛みを完全に抑え、快適な状態で治療を受けられるようにします。

②不安や緊張の軽減

外科処置に対する不安や恐怖心を和らげることも、麻酔の重要な役割です。特に静脈内鎮静法や笑気吸入鎮静法は、精神的な負担を軽減し、リラックスした状態を保ちながら手術を進めることが可能です。

③手術の安全性向上

痛みや恐怖を感じると、血圧の上昇や心拍数の変動が起こり、手術が困難になる場合があります。麻酔によるリラクゼーションは、術中の循環器系への影響を最小限に抑え、医師が集中して手術を行える環境を整えます。

また、麻酔によって動かずに安定した状態を保つことで、埋入位置や角度の調整が必要なインプラント手術の精度が向上します。

④治療の適応性

健康状態や手術の複雑さに応じて局所麻酔、静脈内鎮静法、全身麻酔など麻酔の種類を選択することで、安全な治療が可能になります。例えば、局所麻酔のみで十分な場合もあれば、全身麻酔が必要なケースもあります。

どの麻酔がいいの?それぞれのメリットデメリットとは?

①静脈内鎮静法

静脈内鎮静法は、点滴を通じて鎮静剤を投与し、患者をリラックスした状態に保つ麻酔法です。完全に意識を失う全身麻酔とは異なり、意識がある状態で治療を受けられるため、安全性が高いのが特徴です。

リスクを回避し, 快適な手術を実現するためにもインプラント手術に際して,全身管理下 に静脈内鎮静法を行うことは有用である

※1 参考文献

リスクを回避し, 快適な手術を実現するためにもインプラント手術に際して,全身管理下 に静脈内鎮静法を行うことは有用である

歯科診療所でのインプラント手術に対する静脈内鎮静法の検討 

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsoi/16/1/16_32/_pdf

メリット

・精神的負担が少なくリラックスできる

静脈内鎮静法では、点滴を通じて鎮静剤を投与することで、手術中の緊張や不安が大幅に軽減されます。そのため落ち着いた状態で治療を受けることができ、恐怖心を感じにくくなります。

※2 参考文献

静脈内鎮静法では、点滴を通じて鎮静剤を投与することで、手術中の緊張や不安が大幅に軽減されます。そのため落ち着いた状態で治療を受けることができ、恐怖心を感じにくくなります。

講演3. インプラントの安心・安全を考える

https://www.jstage.jst.go.jp/article/iwateshigakukaishi/37/1/37_KJ00008045764/_pdf/-char/ja

・手術中の記憶が残りにくい

鎮静剤の作用により、治療中の出来事をほとんど記憶しないことが多く、術後に手術そのものへの不安を引きずらずに済みます。特に初めての手術や、恐怖心が強い方にとって大きなメリットです。

※3 参考文献

健忘効果もあり,術中の不快な記憶がほとんど残らないというメリットがある

講演3. インプラントの安心・安全を考える

https://www.jstage.jst.go.jp/article/iwateshigakukaishi/37/1/37_KJ00008045764/_pdf/-char/ja

・医師とコミュニケーションが取れる

完全な意識を失う全身麻酔とは異なり、静脈内鎮静法では必要に応じて医師やスタッフの指示に応答できます。このため、安全性を保ちながらスムーズに治療を進めることが可能です。

デメリット

・回復までの時間がかかる

鎮静剤の影響は術後もしばらく続くため、完全に回復するまでに数時間を要します。この間は、運転や集中力を要する活動を避ける必要があります。

・追加費用が必要

静脈内鎮静法は健康保険の適用外となるため、通常の治療費に加えて高額な費用が発生する場合があります。費用面での負担を考慮する必要があります。

・副作用のリスクがある

稀に、鎮静剤に対する副作用として、吐き気や頭痛、眠気、倦怠感が術後に現れる場合があります。これらの症状は一時的なものが多いですが、持病がある場合や体調によってリスクが高まることがあります。

②局所麻酔

局所麻酔は、治療を行う部位の神経を一時的にブロックすることで、痛みを感じなくさせる麻酔方法です。インプラント治療において最も一般的に使用される麻酔で、治療中でも意識を保ったまま安全に治療を受けられるのが特徴です。

メリット

・痛みを抑えられる

局所麻酔は、処置を行う部位の神経をブロックして痛みを感じないようにします。インプラント治療中の切開や骨の処置など、痛みを伴う操作を安心して受けられます。

・身体への負担が少ない

局所麻酔は全身には影響を及ぼさないため、全身麻酔や静脈内鎮静法と比較して身体的なリスクが低いのが特徴です。心臓や肺に疾患がある方にも比較的安全に使用できます。

・費用が安い

多くの場合、局所麻酔の費用は健康保険内でカバーされるため、追加費用が発生しません。費用負担を抑えたい方にとって大きなメリットです。

デメリット

・精神的負担が大きい

意識がある状態で治療を受けるため、手術音や振動、手術そのものに対する恐怖や緊張感を感じやすくなります。特に手術に対して不安が強い方には、精神的な負担となる可能性があります。

・治療時間が長く感じる

意識があるため、手術中の時間経過をリアルに感じます。特に長時間にわたる処置では、時間が過ぎるのを待つストレスが大きくなることがあります。

③笑気吸入鎮静法

笑気吸入鎮静法は、亜酸化窒素(通称:笑気)と酸素を混合したガスを鼻から吸入することで、不安や緊張を和らげる鎮静法です。軽い酔ったようなリラックス状態に導きながら、意識を保ったまま治療を受けられるのが特徴です。歯科治療において広く用いられており、針を使わないため患者への負担が少ない方法です。

※4 参考文献

古くから歯科治療に応用されてきた鎮静法として,笑気吸入鎮静法をあげることができる. これは鎮静度の調節が容易で呼吸器および循環器系に抑制がなく,回復時間も迅速である.

静脈内鎮静法に笑気吸入鎮静法を併用して行ったインプラント手術一症例

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsoi/6/2/6_243/_pdf

メリット

・精神的負担が少なくリラックスできる

笑気吸入鎮静法では、亜酸化窒素を吸入することで、不安や恐怖を和らげ、リラックスした状態で治療を受けられます。特に歯科治療に恐怖心が強い方や、緊張しやすい方に効果的です。

※5 参考文献

利点として患者の有意識下で慎重に施行することによって,インプラント手術に対する不 安感や恐怖心を和らげることができる

静脈内鎮静法に笑気吸入鎮静法を併用して行ったインプラント手術一症例

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsoi/6/2/6_243/_pdf

・針を刺さなくても治療できる

笑気ガスの吸入のみで鎮静効果を得られるため、針が苦手な方も安心して使用できます。麻酔注射を嫌がる方にとっては、大きなメリットとなります。

・術後の回復が早い

笑気吸入鎮静法は、笑気の吸入を止めると短時間で効果が切れるため、術後すぐに通常の生活に戻れます。治療後の休養や制限がほとんど必要ない点が魅力です。

デメリット

・鎮静作用は個人差が大きい

笑気ガスによる鎮静効果は個人によって異なるため、十分にリラックスできない場合もあります。また、一部の方は笑気の効果が感じられにくいことがあります。

・実施していない歯科医院がある

笑気吸入鎮静法を導入している歯科医院は限られており、希望しても近隣で対応できる医院が見つからない場合があります。事前に対応可能な医院を確認する必要があります。

④全身麻酔

全身麻酔は、治療の際に完全に眠らせることで意識を消失させ、痛みや不安を完全に感じない状態を作る麻酔法です。インプラント治療においては、長時間の手術や複雑な処置、患者の強い恐怖心や嘔吐反射がある場合に用いられることがあります。

メリット

・手術中の不安や恐怖がなく精神的負担が少ない

全身麻酔は治療を受ける方を完全に眠らせ、手術中の意識を完全に遮断します。そのため、治療に対する恐怖心や不安が全くなく、心理的な負担を軽減できます。特に恐怖心が強い方に適しています。

・長時間や複雑な処置にも適している

全身麻酔は長時間に及ぶ手術や、高度で複雑な処置にも対応可能です。患者が動かない安定した状態を保つことで、医師が精度の高い治療を行えます。

デメリット

・身体的負担が大きい

全身麻酔は呼吸や循環器系に影響を及ぼす可能性があり、心臓や肺などへの負担が増加します。そのため、体調や持病によっては適用が難しい場合があります。

・事前検査や入院が必要

全身麻酔を安全に実施するために、手術前に血液検査、心電図、胸部レントゲンなどの事前検査が必要です。また、術後は麻酔の影響を観察するために入院を伴う場合があります。

・費用が高い

専門的な設備と麻酔科医の管理が必要なため、局所麻酔や笑気吸入鎮静法に比べて費用が大幅に高額になります。健康保険適用外の場合は、さらに治療費の負担が増えます。

どの麻酔を選べばいい?おすすめの人は?

麻酔の選択は、治療を受ける方の体調や手術内容、不安の程度によって異なります。迷った場合は、事前に十分な相談を行い、自分にとって最適な方法を選びましょう。

① 静脈内鎮静法

・痛みや手術への不安が強い方

手術中の緊張や恐怖を和らげ、リラックスした状態で治療を受けたい方に適しています。

・嘔吐反射がある方

鎮静効果で嘔吐反射を抑えられるため、治療がスムーズに行えます。

・高齢者の方

身体への負担が少なく、安全にリラックスした状態を保つことができます。

※6 参考文献

また ,インプラントを希望する患者の中には高齢者も多く,循環器疾患などの様々な全身疾患を伴う割合が高いので,精神的緊張や疼痛を精神鎮静法により緩和することは,患者 の基礎疾患の増悪を予防することも期待できる

静脈内鎮静法に笑気吸入鎮静法を併用して行ったインプラント手術一症例

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsoi/6/2/6_243/_pdf

② 局所麻酔

・日常生活に早く戻りたい方

麻酔効果が短時間で切れるため、術後の生活復帰が早いです。

・費用を抑えたい方

保険適用内であることが多く、比較的経済的です。小規模な治療に向いています。

③ 笑気吸入鎮静法

・高血圧や不整脈など循環器疾患がある方

笑気吸入は全身麻酔に比べて循環器への負担が少ないため、安全に使用できます。

※7 参考文献

また ,インプラントを希望する患者の中には高齢者も多く,循環器疾患などの様々な全身疾患を伴う割合が高いので,精神的緊張や疼痛を精神鎮静法により緩和することは,患者 の基礎疾患の増悪を予防することも期待できる

静脈内鎮静法に笑気吸入鎮静法を併用して行ったインプラント手術

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsoi/6/2/6_243/_pdf

・脳貧血にかかったことがある方

緊張や不安を軽減する効果があり、貧血の発作を防ぐ助けになります。

・嘔吐反射がある方

嘔吐反射を軽減し、針を使わない治療を希望する方にも適しています。

④ 全身麻酔

・痛みや手術中の音を一切感じたくない方

完全に意識がない状態で治療を受けるため、精神的負担が最小限になります。

・長時間や複雑な処置を受ける方

長時間に及ぶ治療や高度な技術を要する手術に適しており、医師が精度の高い治療を行うことが可能です。

インプラント治療において全身麻酔が用いられることは少ないですが、高齢の方や全身麻酔での治療を希望する方などに用いられることもあります。

※8 参考文献

今後高齢化が進むにあたり,さまざまな全身性疾患を持つ患者が増加し、そのような患者のインプラント埋入およびインプラント関連手術も増加すると考えられる.適応を選択すれば局所麻酔単独ではなく,日帰り全身麻酔下の手術がよい適応となる.

全身麻酔下日帰りインプラント手術周術期管理の検討

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsoi/20/4/20_636/_pdf

麻酔が切れた時の対処法は?

①アイシング

手術後の腫れや痛みを軽減するために、患部周辺を冷やします。冷却剤や氷をタオルで包み、15~20分間隔でアイシングを行います。冷やしすぎによる凍傷を防ぐため、直接肌に当てないようにしてください。

②痛み止め

痛みを感じ始める前に、医師から処方された鎮痛剤を服用するのが効果的です。痛みが強まる前に薬が効き始めることで、不快感を最小限に抑えられます。指示された用量や頻度を守り、過剰摂取を避けてください。

③歯科医に相談

痛みが強すぎる、腫れが長期間続く、出血が止まらないなどの場合は、すぐに歯科医に連絡してください。通常の回復過程なのか、追加の処置が必要なのかを判断してもらうことができ、適切な対処を受けられます。

インプラント手術において麻酔を選択する際のポイント

インプラント手術では、ご自身の体調や手術の内容、精神的な状態に合わせて最適な麻酔を選ぶことが重要です。不安や疑問があれば、手術前のカウンセリングで医師に相談しましょう。

各麻酔の特徴やメリットデメリットを理解し、適切な麻酔を選ぶことで、快適で安全なインプラント治療を受けられます。

明敬会は精神的負担軽減に取り組んでいます

痛みや腫れ、手術に対する恐怖心は、麻酔はもちろん手術の方法で負担を軽減することができます。

患者様の心身への負担ができるだけ少ない方法を導入しておりますので、一度ご相談いただければと思います。

参考文献
  1. 櫻井 誠, 白鳥 清人, 平井 滋, 飯島 俊一. “歯科診療所でのインプラント手術に対する静脈内鎮静法の検討” 日本口腔インプラント学会誌 2003 年 16 巻 1 号 p. 32-40
  2. 城 茂治. “講演3. インプラントの安心・安全を考える” 岩手医科大学歯学雑誌 2012 年37 巻1 号 p. 54-.
  3. 永井 一光. “静脈内鎮静法に笑気吸入鎮静法を併用して行ったインプラント手術一症例” 日本口腔インプラント学会誌 1993 年 6 巻 2 号 p. 243-249.
  4. 諏訪 裕彦, 宮本 郁也, 別所 和久. “全身麻酔下日帰りインプラント手術周術期管理の検討.” 日本顎咬合学会誌 咬み合わせの科学 2007 年 20 巻 4 号 p. 636-643.
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