「まだ乳歯が残っているかも?」
成人後も乳歯が抜けずに残る「大人乳歯」は、気づきにくく放置されがちですが、寿命が短く将来トラブルを招く可能性があります。
抜くべきか残すべきか、抜けた後の治療法も含め、正しい知識で将来の歯の健康を守りましょう。
ご自身の歯に不安がある方は、ぜひ参考にしてください。

監修者

医療法人社団 明敬会
滝澤 聡明 | Toshiaki Takizawa
1968年生まれ、東京都出身。93年、神奈川歯科大学卒業後、国際デンタルアカデミー入校。国際デンタルクリニック勤務の後、96年にタキザワ歯科クリニック開業。98年、日本大学歯学部生理学教室に入室し、2004年に博士号取得。同年、医療法人社団明敬会を設立し、理事長に就任。2006年湘南藤沢歯科開設。2019年東京日本橋デンタルクリニック開設。
・大人になっても乳歯が残るとはどういう状態か
・大人乳歯を放置するリスクとセルフチェック方法
・抜けた後の治療法と、それぞれのメリット・デメリット
大人になっても乳歯がある「大人乳歯(乳歯晩期残存)」とは?

通常、乳歯は乳幼児期に生え始め、6歳ごろから順次抜け始め、12歳前後にはすべて永久歯(えいきゅうし)に生え変わるのが一般的です。ところが、まれに成人になっても乳歯が抜けずに残っている場合があり、これを乳歯晩期残存(にゅうしばんきざんぞん)、または通称「大人乳歯」と呼びます。
大人乳歯とは、永久歯への正常な交換が行われず、乳歯が口腔内にとどまっている状態のことです。この状態の原因として最も多いのが、永久歯がもともと存在しない「先天性欠如歯(せんてんせいけつじょし)」です。他にも、永久歯の位置異常や萌出(ほうしゅつ)障害などにより、生え変わりが正常に進まない場合もあります。
乳歯は本来、一時的な役割を果たす歯であるため、構造が永久歯とは異なり、歯冠がやや小さく、形態にも丸みがあることが多いのが特徴です。また、歯列の中でやや目立つ存在になることもあるため、見た目の違和感を覚えて気づくケースもあります。
大人乳歯は一見問題がなさそうに見えても、将来的にトラブルの原因となることがあります。そのため、違和感や気になる点があれば、早めに歯科医に相談することが大切です。
自分の歯が大人乳歯(乳歯晩期残存)かも?セルフチェックの方法と確認ポイント

「もしかしてこの歯、まだ乳歯なのでは?」と感じたことはありませんか?
実は、成人のうち1〜2%程度に大人乳歯(乳歯晩期残存)が見られると言われています。
ただし、見た目だけで乳歯か永久歯かを判断するのは難しく、正確な診断には歯科医院での検査が必要です。
とはいえ、セルフチェックのポイントを知っておくことで、受診のきっかけをつかむことができます。
大人乳歯セルフチェック|こんな歯、当てはまりませんか?
以下のような特徴がある場合、その歯は大人乳歯である可能性があります。
- 他の歯よりも小さく、先がとがっている形をしている
→ 乳歯は歯冠(しかん)が小さく、永久歯より丸みを帯びていることがあります。 - 歯の位置がややズレている、または隙間が空いている
→ 乳歯のまま残っていると、周囲の永久歯とのバランスにズレが生じることがあります。 - 左右で本数が異なる、片側だけ1本少ない
→ 片側だけ永久歯が欠如しているケースもあるため、歯の対称性は要チェックです。 - 子どもの頃から「この歯だけ抜けなかった」と記憶がある
→ 抜けなかった乳歯がそのまま残存していることも珍しくありません。 - ぐらつきがある or 噛むと違和感がある
→ 乳歯は**歯根(しこん)**が短いため、加齢とともに動揺(どうよう)が起きやすくなります。
セルフチェックで気になる点があれば、できるだけ早く歯科を受診することをお勧めします。
3.大人乳歯(乳歯晩期残存)の主な原因とは?
大人になっても乳歯が残る「乳歯晩期残存」は、通常の歯の交換サイクルが何らかの理由で滞った結果として生じます。
ここでは、大人乳歯の原因としてよく見られる3つのケースをご紹介します。
① 永久歯の先天性欠如(先天性欠如歯)
最も多い原因のひとつが、永久歯が最初から存在しない「先天性欠如歯(けつじょし)」です。
これは、歯胚(しはい)と呼ばれる歯のもとの組織が形成されないことによって起こり、10人に1人ほどの割合で見られる比較的身近な異常です。
特に多いのは「下顎第二小臼歯」や「上顎側切歯」の欠如で、これらの永久歯が存在しない場合、対応する乳歯が抜けずに長期間残ることになります。
※1 参考文献
そのほか残存乳歯の歯種別頻度は第二乳臼歯が52.3%で一番多く、次いで乳犬歯の23.8%、乳中切歯11.3%の順で、乳側切歯と第一乳臼歯はほぼ同率であったとし、さらに後継永久歯の歯胚はすべて観察されなかったと報告している
晩期残存乳歯の病理組織学的検討 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jspd1963/29/4/29_829/_pdf/-char/ja
② 永久歯の位置異常・萌出障害
永久歯があっても、正しい位置に存在しない、あるいは骨や他の歯に阻まれてうまく生えてこないことがあります。これを「萌出(ほうしゅつ)障害」と呼びます。
たとえば、永久歯が骨の中で傾いていたり、他の歯とぶつかっていたりする場合、本来のタイミングで乳歯を押し出すことができず、乳歯が残存してしまいます。
③ 乳歯の根の吸収が不完全/生え変わりの遅れ
通常、乳歯の下から永久歯が生えてくる際に、乳歯の根は自然に吸収されていきます(歯根吸収)。
しかし何らかの理由でこの吸収が遅れる、あるいは不十分な場合、乳歯がぐらつかずにそのまま残ることがあります。
このようなケースは、永久歯の成長の遅れや栄養状態、遺伝的要因などが複合的に関与していると考えられています。
※2 参考文献
乳歯の残存を起こす原因について、石川ら1)は少数の乳歯の残存の場合、①後継永久歯の歯胚の欠如、②永久歯の埋伏または転移、③永久歯の萌出方向の偏位、④顎骨の異常発育をあげ、多数の乳歯の残存の場合も後継永久歯の欠如または萌出遅延あるいは埋伏が大きな原因であると述べ、さらに永久歯の無歯症あるいは萌出遅延を起こすようないろいろな全身性疾患の場合に、多数の残存を合併することが多いと述べている
晩期残存乳歯の病理組織学的検討 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jspd1963/29/4/29_829/_pdf/-char/ja
4.大人乳歯(乳歯晩期残存)を放置するとどうなる?6つのリスクと将来への影響

大人になっても乳歯が抜けずに残っている「大人乳歯(乳歯晩期残存)」。自覚症状がないことも多く、放置してしまう方も少なくありません。
しかし、乳歯は本来一時的な役割を担う歯であり、長期間の使用に耐えられる構造にはなっていません。そのため、将来的に様々なリスクが生じる可能性があります。
大人乳歯の寿命はどれくらい?
大人乳歯の平均的な寿命は30歳前後とされています。
その理由は以下の通りです:
- 歯根(しこん)が短くて浅いため、動揺しやすい
- 歯質(エナメル質・象牙質)が薄く脆いため、虫歯の進行が早い
- 加齢による咬合力や歯周病への耐性が弱い
中には40代・50代まで機能している例もありますが、計画的な対応がないと突然脱落することも少なくありません。
放置によって起こり得る6つのリスク
- 自然脱落しやすい
→ 油断している間にグラつき、抜けてしまうことがあります。 - 虫歯・歯周病になりやすい
→ 歯質が弱く、清掃性も低いため感染リスクが高まります。 - 噛み合わせや歯並びの乱れ
→ 周囲の歯が移動し、全体のバランスに影響する可能性があります。 - 顎骨の発育・吸収への悪影響
→ 適切な刺激が加わらないことで骨がやせ、補綴治療に影響する場合も。 - 将来的な治療選択肢の制限
→ スペースが狭くなると、インプラントやブリッジが難しくなります。 - 見た目(審美性)の問題
→ 乳歯の小ささ・形状の違いが前歯などで目立つことも。
対策は「早期診断」と「計画的な判断」
大人乳歯は放置せず、永久歯の有無・状態に応じて、「抜歯」か「保存」かを早めに判断することが大切です。
早期対応により、将来の治療の選択肢も広がり、見た目・機能の両面で健康的な口腔環境を保つことができます。
大人乳歯(乳歯晩期残存)は抜くべき?抜歯が必要なケースと判断基準

大人になっても乳歯が残っている「大人乳歯(乳歯晩期残存)」。
今のところ問題なく使えていると感じていても、「抜いた方がいいのか?」「残しても大丈夫なのか?」と悩む方も多いのではないでしょうか。
大人乳歯は、その構造上の脆弱性や将来的なトラブルリスクを考慮すると、計画的に抜歯・保存の判断を行う必要がある歯です。
ここでは、抜歯が推奨されるケースと、保存が可能なケースの判断基準を詳しく解説します。

抜歯が必要と判断される主なケース
① 乳歯の歯根が短く、動揺がみられる場合
乳歯は歯根(しこん)が短いため、加齢や咬合圧の蓄積によって動揺(ぐらつき)しやすくなります。
Ⅱ度以上の動揺(前後左右だけでなく、上下方向にも動く)がある場合は、自然脱落や咬合障害のリスクが高く、抜歯が推奨されます。
② 永久歯が存在しており、生えるスペースが確保できない場合
歯科用レントゲン(パノラマX線やCBCT)で永久歯の歯胚が確認できるにも関わらず、乳歯が邪魔をして萌出(ほうしゅつ)できない場合、
乳歯を抜歯し、矯正や誘導処置によって永久歯を適切に導く治療が必要になることがあります。
③ かみ合わせや歯列に悪影響を与えている場合
大人乳歯が隣接歯の傾斜や咬合のズレ(不正咬合)を引き起こしている場合、放置することで顎関節症や歯列不正が進行する恐れがあります。
咬合バランスの維持の観点からも、早期の抜歯が望ましいとされます。
④ 虫歯や歯周病による保存不可能な状態
乳歯は歯質が薄く、象牙細管が広いため虫歯の進行が早いという特徴があります。
すでに大きな齲蝕(うしょく)や歯根の吸収、歯周病による歯槽骨の吸収が進行している場合、保存よりも抜歯とその後の補綴(ほてつ)治療が優先されます。
乳歯を残してもよいケース
①永久歯が先天的に欠如しており、乳歯が安定して機能している場合
永久歯の先天性欠如が確認され、かつ乳歯がしっかりと骨に支持され、動揺や炎症がない場合には、保存という選択肢もあります。
とくに、咬合関係や審美性に問題がなく、長期使用に耐えうる状態であれば、経過観察を前提とした機能的活用が可能です。
②インプラントやブリッジなどの補綴治療が難しい部位の場合
たとえば、骨の幅や高さが不足している部位や、審美性に厳しい前歯部などでは、補綴治療のハードルが高いこともあります。
その場合、乳歯を「仮歯として活用する」という考え方も、現実的な選択肢のひとつです。
6.大人乳歯(乳歯晩期残存)が抜けた・抜いた後の治療法とは?

大人乳歯(乳歯晩期残存)が抜けてしまった、あるいは歯科医の判断で計画的に抜歯した後、そのままにしておくのは避けるべきです。
欠損部位を放置すると、隣接歯の傾きや咬み合わせの崩れ、顎骨の吸収といったトラブルが進行し、将来的な治療の難易度が上がる可能性があります。
失われた歯の機能と見た目を補うためには、「補綴(ほてつ)治療」が必要です。
選択肢としては主にインプラント・ブリッジ・入れ歯の3つがあり、それぞれに特徴があります。とくに天然歯のような噛み心地と美しさを実現できるインプラントは、多くの方に最適な治療法です。
① インプラント治療(人工歯根)|機能性・審美性ともに優れた選択肢
インプラントは、顎の骨にチタン製の人工歯根を埋め込み、その上にセラミック製の人工歯を装着する治療法です。
大人乳歯の欠損部位をしっかりと補うだけでなく、周囲の健康な歯を削ることなく、単独で機能回復が可能です。
特長
- 天然歯に近い見た目と噛み心地
- 咀嚼機能が高く、硬いものも安心して噛める
- 顎の骨に刺激を与えることで、骨吸収の予防につながる
- 隣接歯に負担をかけず、長期的に安定した状態を保ちやすい
注意点
- 外科手術が必要で、治療期間は数ヶ月にわたる
- 自由診療(保険適用外)のため費用は高額
※3 参考文献
インプラントを挿入することによりインプラント体周囲の骨形成では,間葉系細胞が直接骨芽細胞に分化し,骨芽細胞が類骨組織を作り,類骨組織に石灰化が起こって新しい骨組織を作り上げる
歯科インプラント体と周囲骨組織の界面についての組織学的考察 matsumoto_shigaku_19-03-01.pdf
※4 参考文献
「インプラント義歯使用によって咀嚼は改善したか」,インプラント義歯使用者に尋ねたところ,普通の食事が食べられるようになった,食べられる食品の種類が増えた,通常義歯と比べてインプラント義歯の方が安定した,などの回答を得た
血管柄付き腓骨を用いた上下顎再建 ― インプラント義歯にどんなメリットがあるのか ― https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjhnc/40/1/40_28/_pdf
② ブリッジ|短期間で固定できるが、支台歯の負担に注意
ブリッジは、失った歯の両隣の歯を支台として削り、連結した人工歯を固定する方法です。
特長
- 比較的短期間で治療可能(2〜3週間)
- 噛む力がしっかり伝わる
- 保険適用で費用を抑えられる場合もある
注意点
- 健康な歯を大きく削る必要がある
- 支台歯に負担がかかり、将来的なトラブルのリスクがある
- 欠損部の骨が徐々に痩せていく
※5 参考文献
ブリッジ装着後のポンティック下の骨組織の変化は主として退行性のものであり、ポンティック下の顎堤に著明な骨増生をみることはきわめて稀で、とくにこの様な骨増生が左右両側に生じた例は現在までにわずかに1例の報告をみるのみである。
下顎両側の臼歯部ブリッジのポンティック下にみられた骨増生 https://www.jstage.jst.go.jp/article/dentalradiology1960/26/4/26_4_333/_pdf/-char/ja
③ 義歯(入れ歯)|手軽さはあるが、安定性や快適性は劣る
部分入れ歯(部分床義歯)は、取り外し式の人工歯で、金属のバネなどで周囲の歯に固定します。
特長
- 費用を抑えやすく、外科手術が不要
- 保険診療でも対応可能(条件あり)
注意点
- 装着時の違和感や異物感
- 強く噛めない、発音がしづらいなどの機能的なデメリット
- 定期的な調整・作り直しが必要
大人乳歯が抜けた後の治療は、早期に計画を立てることが成功のカギとなります。
抜けたままの状態が続くと、骨吸収や咬合バランスの乱れが進行し、治療がより難しくなることもあります。
まずは歯科医院で検査を受け、自分の口腔内の状態や予算に合わせた最適な補綴治療を選びましょう。

明敬会は一人ひとりの口腔の状態に合わせたインプラント治療をしています
永久歯がない大人乳歯を抜歯・脱落した場合は、歯の補綴が必要です。補綴方法にはインプラント、ブリッジ、入れ歯がありますが、特にインプラントは見た目と機能の両面で自然な回復が可能なため、多くの患者様に適した選択肢です。
明敬会では、患者さまに負担の少ないフラップレスインプラント専門の治療院です。
当院では、7社の異なるメーカーから9種類のインプラント体を取り揃え、幅広い患者様のニーズに対応できる体制を整えております。大人乳歯でお悩みの方はぜひお気軽にご相談ください。
- 信家 弘士, 中島 正人, 城所 繁, 長坂 信夫. “晩期残存乳歯の病理組織学的検討.” 小児歯科学雑誌 29巻 (1991): 4 号 p. 829-838.
- 信家 弘士, 中島 正人, 城所 繁, 長坂 信夫. “晩期残存乳歯の病理組織学的検討.” 小児歯科学雑誌 29巻 (1991): 4 号 p. 829-838.
- 鈴木 和夫. “歯科インプラント体と周囲骨組織の界面についての組織学的考察.” 松本歯学 19巻 (1993) 3号: p. 223-234.
- 武田 泰典. “下顎両側の臼歯部ブリッジのポンティック下にみられた骨増生.” 歯科放射線 26巻 (1986) 3号: p. 333-334.
