上顎洞挙上術 | 監修:東京日本橋デンタルクリニック
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  • 上顎洞挙上術

上顎洞挙上術とは上顎洞の底の骨を増やす事で、サイナスリフトやソケットリフトとも呼ばれています。人の鼻には「鼻腔」と「副鼻腔」という2種類の空洞があり、顔の正面の中央にある鼻腔と、それを取り囲むように副鼻腔があります。副鼻腔は、上顎洞(じょうがくどう)や前頭洞(ぜんとうどう)、篩骨洞(しこつどう)などから形成されています。

副鼻腔のうち頬の内側にある空洞を上顎洞といい、上顎(上あご)臼歯部(奥歯)のインプラント治療をする際に、インプラント体(人工歯根)の長さに対して骨の高さが足りない場合、インプラント体が骨を貫通して上顎洞に穴を開けてしまうことになります。

術前のCT診断などの検査でこのような事態が想定される場合は、インプラント治療は避けるという診断が一般的ですが、上顎洞に人工骨や自家骨(患者様ご自身の骨)を移植し、骨を増やすことでインプラント体を安定させる治療方法を上顎洞挙上術といいます。


サイナスリフト

サイナスリフトもソケットリフトと同様に上顎の骨に高さが足りない場合に採用される術式で、歯肉(歯ぐき)を横から切開して骨を削り、上顎洞を覆っているシュナイダー膜を押し上げて確保したスペースに骨補填を行う治療法で、上顎の骨の高さが5mm以下の場合でも治療が可能です。

骨を増やす量が多い場合に行われる治療法で、人工骨が強固に安定するまでに6~10か月ほどかかるため、トータルの治療期間は長くなります。また、侵襲(身体にかかるダメージ)が大きいため、ソケットリフトと比較して、術後に痛みや腫れがでやすく、感染症のリスクも高くなります。

【サイナスリフトの流れ】
① インプラント体を埋入する位置の頬側の歯肉を切開して骨を露出させる。
② 骨を削り、シュナイダー膜を傷付けないように露出させる。
③ 骨からシュナイダー膜を剥離して骨補填するスペースを確保。
④ 骨補填材を注入し人工膜で蓋をして、歯肉を縫合して完了。
⑤ 骨形成の経過を観察し、問題がなければインプラント体を埋入。

【サイナスリフトのメリット・デメリット】
・メリット
骨の高さが極端に足りない場合でも治療可能
切開を行うので術野が見やすく、粘膜損傷などのリスクを低減
隣接する複数本の治療にも有効
・デメリット
対応範囲が広く、切開を伴うため痛みや腫れによる身体的負担が大きい
上顎洞を貫通させた場合、副鼻腔炎や蓄膿症に感染する恐れがある
治療期間が長い


ソケットリフト

ソケットリフトとは特殊な器具を使用し、垂直方向に上顎洞を持ち上げ、インプラント体を埋め込むために形成した穴から上顎洞の底の粘膜(シュナイダー膜)を押し上げて、確保したスペースに骨補填を入れることで骨の量を補う骨造成の術式です。

インプラント治療は通常、最低10mm以上の高さが骨になければ適用できませんが、上顎の高さが足りないけど5mm以上ある場合に選択肢として考えられることが多いです。 切開する範囲が小さいので身体への負担を軽減でき、骨を増やす量が比較的少ない場合に行われる治療法で、インプラント体の埋入と同時に行えるので治療期間が大きく変わらないのがメリットです。

【ソケットリフトの流れ】
① 顎の骨にインプラント体を埋め込むための穴(インプラント窩)を、シュナイダー膜を傷付けないように削る。
② インプラント窩から骨補填材を注入しシュナイダー膜を押し上げる。
③ インプラント体を埋入し完了。

【ソケットリフトのメリット・デメリット】
・メリット
痛みや腫れ、術後の出血やリスクが低い
外科処置範囲を最小限に抑え骨の厚みを造ることが可能
身体への負担が少ない
・デメリット
対応範囲が狭い
治療ができるケースが限定的
上顎洞を貫通させた場合に副鼻腔炎や蓄膿症に感染する恐れがある


上顎洞拳上術のリスク

・上顎洞挙上術においての術後合併症の発生率は最大20%と報告されており、口腔洞瘻、血洞、インプラントの喪失、移植片の喪失、副鼻腔感染症、副鼻腔炎が含まれます。

・以下の論文(※1)で上顎洞挙上術の術後合併症の割合が20%との報告があり、確率が高いので第一選択としては上顎洞挙上術を行わない。第二選択は上顎洞挙上術をする場合でも最小限にする事が良いと考えます。

・副鼻腔炎の既往の有無にかかわらず極力、副鼻腔(上顎洞)を触らずに、触るとしても最小限にしてインプラント体の埋入をすることが重要になります。

※1:引用元
(Katranji,AmarDDS;Fotek, PaulDDS;Wang,Hom-Lay DDS,MSD,PhD
[sinus augumentation complications:etiology and treatment]
implant dentistry : September2008-Volume17-issue3-p339-349)


上顎洞挙上術を回避する方法

耳鼻科で副鼻腔炎の既往症があるのでインプラント治療はやめたほうが良いと言われた方や、術後の痛みや腫れといった身体にかかる負担、インプラント体が上顎洞内に落ちてしまうリスクや治療に伴う感染症、副鼻腔炎を発症するリスクを減らすためにも上顎洞挙上術を回避する方法がいくつかあります。

①短いインプラント(EXTRA SHORT IMPLANT長さ4mm,SHORT IMPLANT6mm)を使用し骨内に収め、上顎洞を触らないか上顎洞粘膜を挙上する場合でも最小限の量にする(少ししか挙上しない為、上顎洞粘膜への刺激が最小限)。但し、骨との接触面積を確保するためには本数を極力省かず、複数歯で連結させる。

②骨がある方向に傾斜埋入する(口蓋側などに入れ、角度付きAB(17度、30度など)で補正する。但し、歯ぎしりなどが強い方はインプラントやスクリューの緩み、破折の確率がUPすることもある)。※

③親知らず(上顎結節)の位置に入れる。但し、歯の本数は増える。※

④隣在歯の炎症処置(神経処置・抜歯等)を事前にしておく。神経処置をしても回復しない場合、または破折等で悪化や再治療不可で保存したい場合は、上顎洞炎やインプラントの感染リスクが高くなることをご了承ください。術後に感染した場合、隣在歯の炎症、インプラントの脱落、撤去、上顎洞炎が長引く場合がある。

⑤人工骨などの異物の使用を極力回避(くしゃみ、鼻をかむ、術中、粘膜が薄い、等が原因で上顎洞粘膜が破れて、人工骨などの移植材が上顎洞内に漏れ、拡散すると上顎洞炎を引き起こしやすいため、人工骨を使用しない方が万が一上顎洞粘膜がやぶれても上顎洞炎を引き起こしにくい。また、インプラント撤去時に人工歯を使用して入る場合、歯肉が閉鎖しにくい)。

⑥入れ歯やブリッジで対応。もしくは何も入れない(てい出防止には硬いナイトガードを使用)。

⑦骨があり、普通埋入できるところまで歯をつくり、上顎洞挙上術が必要な箇所にはインプラントをしない(短縮歯列)。

⑧耳鼻科で自然口の拡大や副鼻腔炎など・鼻疾患の処置をしてからインプラントの手術をする。

⑨花粉症、鼻炎アレルギーなど有る方は症状が出る季節を避けて手術日を選ぶ。

※②傾斜埋入、③親知らずの位置は歯磨きが難しく、頬の粘膜・舌を嚙みやすく、横揺れに弱くなるため、歯間を大きめに開けたり、歯を小さくしたり、連結したりマウスピースなどを使用します。

症状がない場合でも、隣在歯に炎症があると上顎洞粘膜を介してインプラントが感染する場合があります。
また、逆にインプラント手術により、症状が無い隣在歯の炎症が急性化し、咬合痛、腫れ、熱感、痛み、上顎洞炎を引き起こす可能性がありますので、近くに入れる場合は、再治療もしくは抜歯をする方が良いです。