金属を使わないジルコニア・インプラント
一般的なインプラントの多くはチタンで形成されています。チタンは金属アレルギーを誘発するリスクは低いとされていますが、完全に否定することはできず、課題ともなっていました。そこで現在注目されているのが、金属アレルギーの患者さまにも適応するジルコニア・インプラント。ジルコニアはとはどのような物質なのか、チタン製のインプラントとの違いなどを含め、ジルコニア・インプラントについて詳しくご紹介してまいります。
ジルコニア・インプラントとは?
インプラント治療において歯槽骨とチタンが結合する“オッセオインテグレーション”を発見してからおよそ半世紀以上の年月が経過しました。一般的なインプラントは歯槽骨に埋め込むインプラント体と、上部構造である被せ物(人工歯)を結合する役割を果たすアバットメントで構成されその全てがチタンで形成されています。チタンは金属の一種ではありますが、金属アレルギーを誘発・発症するリスクは低いとされてはいるものの、完全に否定することはできませんでした。
そこで登場したのが、ジルコニア・インプラントです。ジルコニアは人工ダイヤモンドとも言われ強度に優れることから、スペースシャトルの外壁、近年見かけるセラミック製の白い包丁、歯科治療においては、被せ物である人工歯にも使用されている素材であり、人工関節にも使用される程に人体への親和性が高く、人体に影響がすくないとされています。
ジルコニア・インプラントの歴史
ジルコニア・インプラントは、2000年代初頭にインプラント体とアバットメントが一体化された構造のものが発売され、1ピースな構造のために強度は優れますが、インプラント埋入の手法も限られ、アバットメント破損の場合にも部品交換は出来ず、インプラント自体を交換しなくてはならず、課題もありました。
2005年の薬事法でジルコニア製のアバットメントの認可がおり、2010年代頃にはインプラント体とアバットメントが分割された2ピースタイプのジルコニア・インプラントが発売されました。従来の課題点を改善するように、2ピースタイプではアバットメントが破損した場合にも、インプラントを丸ごと交換することなく、アバットメント部分のみの交換でおえることができるようになり、口腔内状況によって1ピースタイプと2ピースタイプかを選択することが可能となりました。
ジルコニア・インプラント最大の特徴
ジルコニア・インプラントの最大の特徴はあらゆる金属アレルギーの誘発・発症の心配がない素材であるジルコニアで形成されていることです。金属を一切使用せずに、インプラント体、アバットメント全てにおいてジルコニアで形成され、更には上層構造である人工歯(補綴物)をもジルコニアにすることで、透明感のある天然歯に劣らない審美性の高い口元を手に入れることが可能となります。
ジルコニア・インプラントは天然の歯槽骨と同等な機能性を兼ね持ち、色合いも骨と同色の白であるために異物感が少なく、更には歯肉とも相性がよくジルコニアと馴染むために、お口の中の細菌の住みかとなる歯周ポケットの形成リスクを下げ、インプラント周囲炎を防ぎます。
また、従来から使用されている“銀歯“も金属であるパラジウム合金で作られています。金・銀・銅・亜鉛などから形成された補綴物であり、経年劣化に伴い少量のパラジウム合金が体内に蓄積し、アレルギー発症を誘発してしまうリスクや、歯肉にパラジウム合金の色素が沈着し黒くなってしまうケースも報告されており、メタルフリーの歯科治療が求められる時代となった近年では、メタルフリーであるジルコニア・インプラントが大変注目されています。
ジルコニア・インプラントのメリット・デメリット
インプラントの素材としても使用されるようになったジルコニアですが、ジルコニア・インプラントのメリット、デメリットを理解した上で治療に取り組むことが大切です。
ここではジルコニア・インプラントのメリット、デメリットをご紹介いたします。
メリット
- 金属アレルギーの心配がない
- 口腔内ガルバニー電流の心配がない
- 色素沈着しない
- 人体への親和性に優れている
- プラークが付着しにくい
- 強度につよい
- チタンと同等な歯槽骨への結合力
ジルコニアは、金属を一切使用しないメタルフリーなインプラントのため、アレルギーの心配はありません。
異なる金属が口腔内で触れ合うと、微力なガルバニー電流を発生させ、脳に誤った指令が送られ体調不良をきたすと考えられていますが、ジルコニアは金属を一切使用していないために、心配はありません。
半永久的に色素沈着などによる変色、経年劣化にともなう変色はないとされ審美性に優れています。
チタンより更に人体に馴染みがあるとされ、歯周ポケットの形成もされにくく、細菌が侵入を防ぎインプラント周辺に炎症をきたす(インプラント周囲炎)のリスクを軽減させます。
プラークが付着しにくく、お口の環境を清潔に保つことができます。
人工ダイヤモンドであるために強度に優れ、天然歯にも劣らない咬合力に耐えられるだけの強度を持っています。
チタンと歯槽骨の結合力と、ジルコニアと歯槽骨の結合力を比較しても劣ることはなく、同等の結合力を持っています。
デメリット
- 咬み合わせの天然歯に負担がかかる
- 価格が割高
- 取り扱う歯科医院が少数
強度があるがために、対合歯の歯に負担が掛かる場合があります。
保険適応外の治療法であり、歯科医院ごとに価格は異なります。また、チタン製や、その他の素材を使用したインプラント治療に比べると割高な価格となる場合も多く見受けられます。
チタン製のインプラントは世界中でおこなわれていますが、ジルコニア・インプラントはまだ日本では一般的に普及されておらず、取り扱う歯科医院は限られています。
まとめ
今回は、ジルコニア・インプラントについてご紹介してまいりました。ジルコニアは金属アレルギーの誘発・発症の恐れがなく、一般的なチタン製のインプラントに比べ身体への親和性も高いために、細菌の侵入リスクを軽減することができ、天然の歯と比べても劣らない審美性を持ったインプラントであり、今後更にジルコニア・インプラントは全国に普及し、飛躍が予想されるインプラント治療の1つです。