何らかの理由で歯を喪失してしまった場合の修復方法にはいくつか方法がありますが、その中でも歯本来の機能や審美的な回復力の高いインプラントは、修復方法の中でも一番天然歯に近いといわれています。そこで今回はその歴史についてご紹介したいと思います。
起源はなんと紀元前からはじまっていた!
インプラントの歴史はなんと紀元前にまで遡ります。発掘されたインカ文明のミイラの歯の根っこにサファイヤが埋め込まれていたり、エジプト文明では抜けた部分に象牙や宝石を埋め込んだ跡があるなど、「歯が抜けた部分に何かしら埋めて代用する」という行為は古くからおこなわれていたようなのです。しかしこれらはいわゆる儀式のひとつであった可能性もあり、現代のように「修復」として行われるようになったのはもう少し後でした。
- 貝殻でも代用?!
- その後…
中南米で紀元7世紀事の人骨から、下顎骨に一体化していた貝殻が発見されています。永久歯が何らかの要因で抜け落ちた後、形の類似した貝殻を埋めるという、現代のインプラント治療の先駆けがおこなわれていたと考えられています。
その後は、歯が抜けた部分にエメラルド、鉄、金、サファイヤ、コバルト、クロム合金、ステンレス、アルミニウムなど様々な素材を試した記録はあるようですが定着はせず。現在のインプラント治療として「チタン」を使うようになったのは1952年にチタンの特質が発見されて以降、60年前頃から徐々に普及してきたのです。
偶然発見された「チタン」と骨との結合性
現代普及しているインプラントの「フィクスチャー」とよばれるインプラントの埋入部分である土台には、主にチタンが使われています。この経緯には1952年にスウェーデンで応用生体工学研究所の所長を務めていたブローネマルク博士が、骨が修復する過程で骨髄が成す役割について研究をしていたところ偶然に起こった出来事から起用されることになった素材なのです。
- 偶然の産物だった
- ブローネマルクシステム誕生
- 即日インプラントシステムの開発
- 審美性を重要視する患者のニーズ
- インプラント技術の進歩
- 即日セット可能なインプラント
当時ウサギのすねに微細血流の研究のためのチタン製の器具を埋め込んで実験をおこなっていた博士は、実験後にとりだそうとしました。するとその器具がウサギのスネの骨にしっかりくっ付いて取り出せなくなってしまったのだそうです。これまで何度も動物実験を行ってきた中で、他の素材の器具ではそのようなことは起こらなかったことから、チタンが骨との結合性に優れており、且つ人体に拒否反応を起こすことなく結合する素材であるということに気づくきっかけとなったのです。
チタンと骨の結合を発見したブローネマルク博士はこの骨との結合を「オッセオインテグレーション」と命名し、1965年に歯科臨床でインプラントとして応用できるようにしました。そして『ブローネマルクシステム』として始まった最初のインプラントは、生まれ持って顎の骨が弱く歯を失ってしまったトスタラーソンという男性に施術されました。この施術されたインプラントはその後彼が亡くなるまでの41年間、不具合なく機能したという記録があります。
従来のインプラントは、顎の骨に埋入するインプラント体(フィクスチャー)が骨や周辺組織と結合するための期間が数カ月必要でした。その後インプラント体が安定したのを確認してから、上部構造(人工歯)を装着するため、半年~1年ほど完了までにかかることがほとんどでした。しかし昨今、埋入手術後すぐに仮歯をセットできるインプラントも増えてきています。
80年代、日本でも徐々にインプラントは広まり始めますが、当初は喪失歯の修復方法として治療要素が重要視されるため、インプラント結合のための期間、歯が無いまま生活することはあまり重要視されていませんでした。90年代後半になり、治療重視だったインプラントは、見た目の美しさ「審美性」も求められるようになります。これには日本でも徐々に口腔内に意識を向ける人が増えてきたことが伺えます。そして2000年代に入る頃には機能・審美性どちらも兼ね備えたインプラント治療の開発が進み、即日セットできるインプラント治療が開発されました。
1990年代に入ると、徐々にインプラントに関心はさらに高まります。それと比例して喪失歯の修復に審美性を求める患者も増えました。さらに技術の進歩によって、歯周病等で顎の骨が少なくインプラントを諦めていた人でも、骨移植や人工骨など再生治療の進歩によって治療が可能になったのです。
そしてノーベルバイオケア社からインプラント体を埋入手術した当日に仮歯をセットできるものとして開発された「クイックインプラント」というシステムを活用し、多数歯を喪失している症例でも、主要な土台のみ埋入することで一度に修復が可能な「オールオン4」が発表され、1歯に対し1歯の修復にかかっていた治療期間の短縮や費用の削減につながる治療となったのです。
日本のインプラント治療
1978年に大阪歯科大学の川原教授が、人工サファイアを用いたインプラントを開発しました。しかし骨結合が上手くいかず不具合も多く、定着しなかったようです。その後、1983年に東京歯科大学の小宮教授らによってチタンインプラントの臨床応用が始まり、徐々に浸透するきっかけとなったのです。
普及し始めたのは2000年前後
チタンインプラントの成功例を積み重ねていきながら、2000年頃になると歯科大学でも「インプラント科」が設置されるようになりました。現代、それまで主流であった入れ歯やブリッジと併せて、喪失歯の修復方法の選択肢として誰もが知る治療法となったのです。そしてインプラントの性能も年々向上し技術の進歩も遂げながら、インプラント専門の歯科医院が標榜されるほど需要も年々増えています。
まとめ
現在インプラントは世界中で様々なメーカーから100種類以上販売されています。日本国内でも30種類以上といわれており、年々進化し新商品も増えています。性質・品質もさまざまで、本体価格も幅があるため、使用するインプラントによって歯科医院でも施術価格に差があるのが現状です。インプラント治療をお考えの際には、金額だけで判断せず、技術や材料の品質・特徴などもしっかりと把握され、納得のいく治療方法で臨まれることをおすすめします。